織田家と只野家と

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織田家と只野家と

九州征伐が終わって一ヶ月経った。 俺は忙しくあちこちに出掛けては、成敗したりネタに走ったりして居るが、九鬼澄隆がハワイを経由して、アメリカ大陸に移住を本格的に進めた。 そして、俺はある予感を持ってある行動をしていた。 伊勢や大和から職人や技術者の移住を行って居るのだ。 関東に居を構えて、工場を作ったり移住者を募ったりと色々してきたが今回は本格的に関東への移住を進めて居る。 頑なに移住を断る者はそのままだが、移住を希望する者は税率や援助等を大分、優遇している。 恐らく近いうちに伊勢、大和一円は織田家に取られるだろう。 織田家の内部からの突き上げによってな。 今の織田家と争って勝てるかと言えば勝てる…が俺は狭い日本より蝦夷や樺太等の開発にオーストラリアとアメリカ大陸の本格的な移住と開発に重きを置いて居るからだ。 インド洋まで出ないのが味噌だな。欧州の奴等と争っても互いに旨味が無い。 インドまでが只野家が遠征出来るギリギリのラインだ。 アメリカ大陸はインディアンと仲良くし、同化政策を行うように九鬼澄隆に言っている。 そして、スペインの連中を叩き出すようにして居る。 九鬼澄隆の艦隊は最新の艦隊を揃えてアメリカに向かわせて居る。 最新の艦隊は蒸気機関船だ。只野家の技術の結晶とも言える。 図面は俺が起こして技術班がそれを受け継いで見事に形にして見せた。 この蒸気機関船は今後、続々と出来上がる予定である。 関東と東北が未曾有の発展を遂げる中、俺は織田信長の安土に呼ばれる事になった。 「義兄、お久しぶりです」 「うむ、義弟よ。良く来たな、まあ茶室に入れ」 俺は信長に案内されて茶室へと入った。 茶室に入ると直ぐに信長が茶を立ててくれる。 俺はそれをぐい飲みして、ぷはぁと息を吐き出す。 「相変わらず旨い茶ですな」 俺はおかわりを要求すると信長は機嫌良く茶を再び立てる。 「ふふ、天下人が立てる茶だ。お前くらいの者だ。本当に旨そうに茶を飲むのは」 「実際に旨いから仕方ないですよね」 「ふふ、そうか。おかわりをだ」 俺は再び信長の立てた茶を飲む。 「それで、話とは伊勢に大和一円の召し上げですかね」 「相変わらず話が早いな。それと甲斐に信濃も入って居る」 「大分、家臣に言われたみたいですね…」 「すまんな、我としてもお前を関東以降の領有を認めさせるのが限界だった。本音を言えば今、只野家と争っても恐らく我は勝てないだろうからな」 「義兄、それ以上は…」 「分かって居る。だが、言わせてくれ。我は恐れて居る只野家の力とお前にだ。お前と争えば日の本を二つに割る戦になる。多くの血も流れよう、だが最後に立って居るのは恐らく只野家だ。故に我はお前から伊勢と大和一円に甲斐と信濃を取り上げる」 信長は一息に言った。 そして、俺を真剣な眼で見てくる。 「…構いませんよ。実は予想はして居ました。只野家は織田家と争う事はしません義兄が関東以降の地を只野家の物と認めてくれるならば別に何の問題もありません」 信長はほっと息を吐く。 「そうか…すまないな」 「義兄、此れは義兄が本当に天下を取る為に必要な事です。しかし、関東以降は只野家の物と認めて下さい」 「分かって居る」 「駿河と遠江と三河は只野家のままで?」 「うむ、しかし甲斐と信濃には信孝に任せようと思う。助けてやれ」 「分かりました」 「ふふ、実はな只野家の全てを取り上げよと権六が抜かしてな。我は流石に怒りが爆発したわ」 柴田勝家はぶっ殺すリストに書いて置こうかね。 「では義兄」 「うむ、行こうか」 評定の間にて諸侯が見守る中で俺は平伏して、天下人、織田信長を待つ。 「上様のおな~り~」 諸侯もその声に合わせて平伏する。 やがて信長が現れて上座へと座る。 「面を上げい」 信長の声で顔を上げる諸侯と俺。 信長は諸侯の顔を見回して、やがて俺を見る。 「只野仁、前へ」 「はっ」 俺は短くそう答えて、信長の座る上座の直ぐ側へと座ると再び平伏した。 「只野仁より甲斐、信濃、伊勢、大和一円を召し上げる。異論はあるか?」 「は、謹んでお受けします」 「で、あるか」 信長は扇子をパチリと閉じる。 「甲斐、信濃は信孝が入れ」 「はっ!」 諸侯は黙ったままだが、俺に視線を集中するが、俺は飄々としている。 「最後に只野仁。何か言いたい事はあるか?」 「は、関東に移住を希望する者の許しをお願いします」 「うむ、認めよう」 こうして信長の最後の大仕事は本当に終わった。 日の本の統治を信長は速やかに織田信忠に譲ると信長は次の目標に向かって動き出す。 しかし、仁から取り上げた領地で問題が発生した。 急に税率を上げる者達が現れて領民が次々に逃げ出して居るのだ。 仁の領地の税率は三割だった。 それを新しく赴任した領主はいきなり七割まで税率を上げてしまったのだ。 逃げ出した領民が向かう先は関東、逃げ出した領民を追うわけには行かず。 領主は信長にすがった。 話を聞いた信長は「愚か者!」と激怒した。 「貴様等は我に只野家に頭を下げよと言うのかっ!」 一喝して一蹴した。 信長は内心は「いきなり急に税率を上げるからだ!愚か者がっ!」と思って居た。 只野家から召し上げた領地の内、上手く統治が進んで居るのは信孝の治める甲斐、信濃だけだった。 此れはお隣さんになった信孝に仁が色々と世話をしているからだ。 仁は隠居をし、関東と東北の統治を息子の義信に任せて居た。 家臣団も若い者が多いのでスムーズに進んだ。 息子、義信の筆頭家臣は井伊直政であった。 女武将、井伊直虎を家臣にした時に養子の万千代、後の井伊直政を紹介され万千代を義信の小姓にした。 二人は直ぐに意気投合し悪さをしたら二人一緒に怒られる事もしばしばあった。 主に義信が悪さを企んで、それを止める井伊直政の図になるが二人は共に育ち立派な若者へと成長した。 しかし、俺はまだまだ元気な三十代後半。相変わらず嫁を取れとうるさい三成主導の元に貴族から二人の嫁を迎えた。 盛大にお見合いパーティーをして見事に俺を射止めた二人の女性。 舞と千代だ。 俺は舞と千代の両親に援助を行い大層喜ばれた。 二人共、妊娠し女の子を産んだ。 犬と艶の方も妊娠し、男の子を産んだ。見事な産み分けだな。俺は産まれた男の子に三郎と四郎の名前を与え、女の子には寿と千の名前を与えた。 特に深い意味は無いが産まれた女の子は直ぐに織田家の信忠君の息子の三法師の嫁に決まった。 一度だけスペインの無敵艦隊がインド洋まで攻め寄せて来たが夢中戦艦大和一隻で海の藻屑に変えてやったのが最近のハイライトだな。 此処に来て子宝に恵まれて来たな。
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