朝鮮戦役

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朝鮮戦役

その日、俺は安土の信長の元へと呼ばれた。 日の本を統一したら次は明を攻めると信長は常々言って居た。 その時が来たかと俺は重い腰を上げて安土に向かう事になった。 1580年、日の本も落ち着きを取り戻し平和を謳歌して居た時だ。 「明を攻める為に朝鮮を落とす。異論は有るか?」 ざわざわと諸侯が騒ぎ出す。 漸く平和になったのに今度は明を攻めると言い始めた信長に諸侯は動揺を隠せない。 俺はずいっと前に出る。 「熊か、何か意見が有るか?」 信長の視線と諸侯の視線が俺に集まる。 「今、朝鮮や明を攻めても旨味は無いかと思います。朝鮮王朝は荒れに荒れ民は貧困に喘ぎ、明も同様に政治が腐敗し、民が貧困に喘いで居ます。 このまま攻めては物資と兵を悪戯に損なうかと思います」 俺の言葉に信長は暫し考える。 「只野!上様の言葉に異を唱えるかっ!上様の妹を娶って少し調子に乗って居ないか?」 柴田勝家がここぞとばかりに俺に食って掛かる。 信長が日の本を統一してから筆頭家臣として調子に乗ってるようだ。 「権六、やめよ」 信長は柴田勝家を軽く止めると俺に向き直る。 「ではどうすれば良いのだ熊よ?」 「先ずは半国、朝鮮を半国取って半国を豊かにしましょう。そうすれば民が流れて来て、流れて来た民を保護しながら開発を続けて入れば朝鮮王朝は直ぐに弱体化するでしょう」 「うむ、しかし時間が掛かるな」 「上様、それは仕方ない事です。下手にあの国で乱暴狼藉を働けば、民達が一斉に蜂起します。それは一向一揆に近いでしょう。本音を言えば朝鮮や明等はほおって置いて、他国を手に入れて開発したい所ですね」 「ふむ、熊が今、行って居る政策だな?」 信長は少し考えるがやはり駄目だと言い俺の前半の案を採用する事にした。 「やはり、駄目だ。我は明を撃ち破り、天竺まで手に入れたい」 まあ、目の前に広がる大陸が余程欲しい見たいだな。 日本の何倍もの広さが隣に広がって居るしな。 「分かりましたでしたら準備期間を一年儲けて、その後に朝鮮半島の先ずは半国を取りに行きましょう」 信長は満足そうに頷く。 「うむ、頼んだぞ。熊よ」 正直、一年でも時間が足りるかどうか… 行きたくねぇな朝鮮半島… 樺太と蝦夷の開発が今は良い感じなのにな。 各大名は一年の準備期間を貰い、一年後に朝鮮を目指す事になった。 はあ…頭痛い… 一年後を想定して名護屋城が突貫工事で建てられる事になった。 そして、一年後… 1581年の春、名護屋城にて。 第一陣が只野家、上杉家、柴田家、大友家、龍造寺家、島津家、羽柴家が朝鮮の地に赴く事になった。 総大将は織田信雄、副将は俺。 義兄で有る信長の身内贔屓は分かる。 信忠君が将軍だから、日の本から動け無いのも分かる。 だが、信雄は駄目だろ。 義兄の視線は俺に全てを任すと言って居るようだった。 要は信雄はお飾りの大将で箔を付けたい信長の親心と言う訳だ。 まあ、良い。俺は俺の仕事をするだけだ。 俺は船に乗り込み朝鮮半島を目指す。 先ずは半国だな、柴田勝家と信雄の暴走が起こらない事を祈ろう。 只野家が擁する蒸気機関船に諸大名が、驚嘆の声を上げる。 悪いな蒸気機関船に乗れるのは只野軍だけだ。 数はある程度揃って居るが、船は各自自前だからと信長は言って居たからな。 この時に一悶着あった。 総大将で有る自分がこの船に乗るのが相応しいから、船を織田家に寄越すように俺に言って来やがった。 俺は頭痛を覚えながら、丁寧にお断りの言葉を乗せて信雄の使者を返した。 信雄の文句を聞く暇は無いので俺は速攻で蒸気機関船を発進させる。 風に頼らない蒸気機関船なのであっという間に他の船を引き離すと俺は朝鮮の地へと足を着けた。 此処からは時間が勝負、直ぐに兵を降ろすと先ずは陣幕の設営へと移った。 只野軍一万。 此れは蒸気機関船を複数繰り出して乗せるだけ乗せた兵数だ。 蒸気機関船は直ぐにとんぼ返りして物資と更なる兵員を輸送する予定で有る。 陣幕を設営してると敵が現れたとの報告が物見より上がって来る。 直ぐに陣容を整えて敵を迎え討つ。 迎撃に向かう将は明石全登と島津家久と島津歳久だ。 「敵は朝鮮王朝の軍だろう。ひねり潰せ」 「「「はっ!」」」 意気揚々とやって来た王朝の軍は明石全登の鉄砲射撃により撃ち破られ、島津家久に磨り潰され、島津歳久の追撃で壊滅した。 士気の差も有るが思った以上に朝鮮王朝の軍の弱さが目立った。 此れは柴田勝家辺りが信雄を焚き付けないように気を付けないとな。 折角の勝ち戦なので、そのまま近くの城を攻める事にした。 敵は民を放り出して早々と引き上げて行った。 残るは貧困に喘ぐ民達。 俺達の一番初めの仕事は民達に炊き出しをする所から始まった。 炊き出しを行って居ると諸侯の軍が次々と海から降りて来る。 次々と俺が落とした城に入場する諸侯の軍。 俺は諸侯の軍を集めて軍議を行う。 「想像以上に酷いな」 「此処まで朝鮮王朝が腐敗しているとは…」 俺の言葉に島津義弘が答える。 「ともあれやる事は変わらん少しずつ進軍しよう」 「「「「「「はっ!」」」」」」 日の本からの物質を待って少しずつ進軍する事に決めたが、此処で柴田勝家が発言する。 「民が困っておるのだろう?ならば早々に民を解放するのが先だ」 「聞いて居なかったのか柴田殿?このまま先に進んでも物資が圧倒的に足りない」 「我等は正義の軍なのだぞ!民達が物資を持って来るわ!」 「そんな希望的観測で軍を動かすのを許可する訳には行かない」 「貴様に聞いとらんわ!大将は信雄様だぞ!信雄様の判断を仰ぐわ!」 俺はプルプルと震え思わず立ち上がろうとするのを羽柴秀吉に止められる。 「只野殿、此処は抑えて下され!」 ちっ!やはり柴田勝家が噛みついてくるか!義兄の信長の手前、こいつを勝手に処断する訳には行かないしな。 「良いでしょう、信雄様が許可を出したならば御勝手にどうぞ動いて下され。但し!我が軍に余裕は無いので物資はそちらでやりくりしてくれよな?」 「貴様に言われんでも、分かって居るわ!」 ノシノシと歩いて柴田勝家は出て行く。 後に俺は柴田勝家の行動を後悔する事になる。 まさか此処まで愚かだったとは… 儂は早速、信雄様に面通しを行う。 「信雄様!進軍しましょう!」 信雄はその言葉にビクッとなる。 「叔父上は進軍は是とは言わなかった筈だが?」 「信雄様はこの軍の大将ですぞ。もっとどっしりと構えて下され」 柴田勝家が信雄を嗜める。 信雄は不安そうに視線をキョロキョロさせる。 「しかし、父上からは叔父上の言う事に従えと言われて居る」 「大丈夫ですぞ。手柄を立ててしまえば上様も認めてくれます」 信長が認めてくれる… その言葉が信雄に深く刺さる。 「それは本当か?」 「本当ですとも、この柴田勝家が保証します」 信雄の眼に力が宿る。 「ならば柴田勝家よ。勝家が行動する事を許す」 「はっ!」 柴田勝家は軍を単独で動かす訳ではなかった。 あらかじめ根回しを行い、龍造寺家、大友家を味方に付けて柴田勝家は城を飛び出して行った。 そしてその軍に織田信雄軍も続いて城を出て行った。 「なにぃ?大友と龍造寺は兎も角、信雄殿も出て行ったのか?」 「はっ、柴田軍を追いかけて城を出て行きました」 …終わったな。 俺は遠征軍の失敗を早くも悟ったのであった。 柴田軍の行動は順調だった。 進めば王朝の軍は逃げ出し、民達が感謝の意をくれると同時に米等の物資を献上してくれるからだ。 「がははは!あやつの言う通りに成らぬでは無いか!どんどん先に進むぞ!」 そして、柴田軍に加わりたいと義勇兵が現れる。 柴田勝家は上機嫌に義勇兵を迎え入れる。 柴田軍が進めば進む程に義勇兵が現れ、勝家はどんどん迎え入れる。 そして、どんどん物資が無くなって行く。 此処で柴田勝家は伝令を仁の元へと走らせる。 物資の補給を頼む為だ。 しかし、仁からの返事は『断る』との短い答えだった。 勝家は怒る。 「己!只野めっ!日の本に帰った時に覚えて置けよ!」 勝家が無計画に義勇兵を迎え入れた為に、兵糧が底を尽き始めて居た。 此処で義勇兵が勝手に動く。 近くの村を襲撃して物資を奪って来たのだ。 此れには流石の勝家もその村を襲った義勇兵達を処断しようとするが、信雄が待ったを掛けた。 「現地の民達が勝手に行った事、不問とせよ」 そう言えばそうだなと勝家は自分を納得させると軍を先に進めた。 義勇兵達が段々と勝手な行動を行うようになって来た。 同族で有る民達を勝手に襲い、略奪を行うようになって来たのだ。 勝家はそれを何とか止めようと動くが信雄がそれを止める。 信雄が奪った物資の一つに手を付けたからだ。 よりにも依って信雄は現地の女性に手を出してしまった。 此れには柴田勝家は口をあんぐりと開けてしまった。 「ええい、ならば早く先に進むぞ!朝鮮の半分を取ってしまえば只野も口を出せんだろう!」 柴田軍は先に軍を進めるが、その先には十万を超える軍勢が待ち構えて居た。 「あれは明の軍勢か?」 勝家の見る先には明の軍旗が見えた。 「ならば迎え討つぞ。大友、龍造寺に伝令を!」 勝家は伝令を走らせる。 そして明との戦と相成った。 最初こそは有利に戦を進めて来たが、やはり戦は数が物を言う。 段々と戦が劣勢に立たされる。 すると戦場に変化が起こる。 一緒に戦って居た義勇兵がいきなり此方へ襲いかかって来たのだ。 此れには勝家はたまらず軍を撤退へと促すが撤退中に次から次へと、今まで義勇兵が略奪を働いてた村の民達が襲いかかって来たのだ。 結局、柴田軍、大友軍、龍造寺軍は多くの犠牲を払いながら撤退して行った。 勝家が帰って来た時に嫌な予感がしたが、嫌な予感が大分、嫌な方向へと動いてしまった。 勝家は帰って来るなり、刀を抜いて俺に襲いかかって来た。 グーパンで物理的に黙らせて俺は報告書を読む。 さっきから頭痛がなりやまない。 報告書を更に読んで俺は信雄を呼び出して思わず殴り付けた。 「俺は乱暴狼藉は駄目だと言ったよな?信雄殿」 「あ、あれは義勇兵達が勝手に…」 「それを統制するのがお前の仕事やろがあぁぁぁっ!」 「ひぃっ!」 俺の怒りのMAXデスロード状態に、怯える信雄。 「軍を纏めて、とっとと帰れ!」 「しかし、まだ手柄を立てて居ません!」 「ある意味、凄い手柄を立てたよ!お前達は!」 俺は大声で皮肉を叫ぶ。 だから朝鮮の民を信用するなと言ってんだ。 風が悪い方向に吹けば簡単に掌返しする奴等だぞ!
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