幾星霜

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 はぁ。  窓の外。ジメジメとした梅雨の季節。天気予報を信用していたわけじゃなくても、この天気には嫌気が差す。午前中に降れば、夜には雲も晴れる。って言ってたのに。  はぁあ。  星が降る最高の天体ショーに合わせて、今日は新月。天体観測にはうってつけというのに、午後の18時にしてこの天気。溜め息が止まらない。勉強も、お家の手伝いも、今日の為に頑張ったのに。  お母さんは、同窓会で帰ってくるのが遅いし、お父さんはあと3時間は帰ってこないだろう。 「どうしたらいいと思う。カリン。」  テーブルの上で、頭を掻いてる茶猫に声をかける。  ちらりとこちらに目を向けると、外の雨なんて知ったことじゃないと言わんばかりに、私の膝の上に来て、丸くなる。  はぁ。  去年。おばあちゃんが死んだ。人間は誰でも持っている病気らしい。おばあちゃんは、その病気に体が負けてしまったらしい。  そんなおばあちゃんと約束した一つのこと。 「来年の新月の夜に、私は星になるの。だから、もし私がいなくなって悲しくなったら、新月の夜に、空を見上げるのよ。」  天体観測が大好きだったおばあちゃんは、病室を訪れる私に、何度もそう言った。細くなってしまった優しい手で、何度も私の手を握ってくれた。  今日でなくてはだめなのだ。流星群は今日見なくてはだめなんだ。  「そうだ。学校の裏の高い山なら、少しは見えるかもしれない。」  膝の上のカリンを抱えてどかし、二階の自分の部屋に向かう。  扉を開け、昨日用意していた星座早見表、懐中電灯、虫除けスプレー、絆創膏が入ったリュックサックを背負い、水筒にお茶を入れて、玄関に向かう。  一応、玄間にメモを残して行こう。帰るのが遅くなっても、どこにいるのかわかるように。
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