死ぬはずだったモブは何故か溺愛される

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◆思い出した 七歳の時、父に連れられ、隣国の王城へとやって来た。 庭園のような場所へと行き、父に少しの間待ってなさいと言われ一人になる。 綺麗な花が咲いており、色々と見て回っていたら奥の方へと入ってしまっていたらしい。 休息スペースがあり少し休もうと近付くと、二人掛けようの椅子に先客がいた。 右腕で顔を隠すような体勢で眠っている。その左手首から首元へ植物の蔓のように絡み付く痣が見えた。 その見事に綺麗な痣に魅入っていたら、声をかけられた。 「ふん、なんだお前は、気味が悪いだろう。あっちへ行け」 高圧的な話し方をするが、その声音は寂しそうに聞こえた。 痣から視線を外し、目を合わせる。艶のある黒い髪に金の瞳、青白い肌は病的で今にも消えてしまいそうな美少年だった。 まるでゲームに出てくるキャラクターみたい。 「……え?」 何か、今……げーむ?ってなんだっけ?てか、あれ?おれ、何でこんなに"幼い"んだ。 黙りこみ、眉根を寄せた。頭が痛い。 「おい、どうした。気分が悪いのか?」 何か言わなくちゃ、相手が困っている。 「え、っとちがくて……痣、綺麗だなって思って見てた」 「……は?」 ぽかんとした顔をしても美少年とか凄いな、と変に感心していると急に腹を抱え笑いだした。 「これを綺麗と言うのか、お前は!面白い、普通の奴は嫌悪感が湧く筈なんだがな!」 「笑うことないだろ?」 父が迎えに来るまで美少年は笑い続け、その側で俺はムッスリとした目で見ていた。頭の痛みはいつの間にかなくなっていた。 あれから何処からともなく侍女さん達が現れ、数種類のお菓子や軽食が用意された。 機嫌の悪い俺の目の前には、ショートケーキが置かれている。 「笑いすぎたな悪い。名を教えてくれないか?ああ、こっちのケーキも美味しいぞ」 そう言い一口サイズの小さなタルトが置かれ、いつもならうるさい父は我関せず状態で軽食を食べている。 「…………和木芽菘(ワキメスズナ)」 「和木芽……和国の、ではそちらは将軍か。まあいい、菘と呼んでもいいか?私の事はリュクスと呼べ」 にっこりと笑うその口の端から見える犬歯は鋭い。 リュクス?と父は呟き、どこかで聞いたなと更に続けていた。 「リュクス……さま?」 「むう、様はいらん」 渋る俺に、父が止めを刺してくれた。 「菘、お前は今日から一年間ここで世話になるのだ。呼び捨てくらいしてやれ」 「え?なんで!?」 そんなの聞いてない!と父に詰め寄ると抱き締められた。こんなことする場面じゃないから!と、渾身の頭突きを食らわせる。 「うぐっ!?……これは、菘の為なんだ。人ではなく、花人で生まれた菘に必要なことなんだよ。父だって本音を言うなら嫌なんだぞ!?こんな凶悪な連中が住む所に、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、可愛い、愛息子を置いて行きたくはないだ!」 でも必要なことなんだよ。と、悲壮感たっぷりに言われ、諦めた。 「必要な理由って?」 「菘が死なないため」 それだけじゃ分からないから! 父の言葉に、リュクスは分かったのか教えてくれた。 「花人は基本的に、同じ花人同士でしか生まれない。だが、たまに、本当に稀に違う種族との間に生まれることがある。他にも先祖帰りとかもな。その場合、存在が酷く危ない。普通の花人は自身の身を守るため、殺されないよう相手を惹き付けることができる。簡単に言えば匂いで相手の加護欲を際立たせて、守ってもらう。ハーフの場合は別だそういう力自体が無い。と言っても匂いが聞くのは亜人や獣人が主にだな。人族は滅多に無いな。で、今回の菘が一年間ここにいる理由はこの国が龍国だからだな。龍人と花人は切っても切れない関係だ。守ってくれる友人または番候補を探すって所だな。…………菘は今日来たばかりだな?」 「………………あ、うん」 友人は分かるが番候補って何!?いや、友人も分からん。守ってくれるって何?そんなの友人じゃないよな。 「なら……菘。私と友人になろう。加護を与えたい」 「やだ……だってそれって、ただ、リュクスの事利用するだけじゃん」 俺の感覚的にそれは友達じゃない。 リュクスは呆けた顔をし俺の顔をじっと見て、まるで慈しむような笑顔を向けてきた。 「利用すればよい。私は菘が気に入った。もっと、もっと、話がしたいし色々なものを一緒に見たいと思った。だから、与えるのだ」 「今日会ったばかりなのに?」 「そうだな、確かに会ったばかりだが、私は嬉しかったのだ」 もし可視化が出来れば、俺の頭上には?マークが沢山あるだろう。そう考えていたらリュクスは困ったような表情をする。 「なら、これから一年間で私を知ってくれ。知って、菘が私を友人と思えたなら、その時は加護を受け取ってくれ」 「うん。けど、それはリュクスもだよ!俺を友人だと思ったらだ!!」 そう話していた俺達の側で父は苦い顔をしていた。 「やはり、連れて帰って良いだろうか」 「父!」 「ぬう」 その後分かったのは、リュクスがこの龍国の王族で現龍王様の弟だったこと。その龍王様は父と若い頃、母を巡って大喧嘩したなど。色々と教えてもらった。 その日の夜、夢を見た。 その夢の中の俺は大人で、大きな箱に人が入って動いていた。 それに向かって隣にいた人物が、硬い物を持って何かしていた。 『◯◯始まったみたいだぜ?お、モブキャラ。えっと?案内してくれる、よし、してもらおう』 そこに出てきた人は母に似ていた、いや?色が違う俺と同じ色だ。じゃあ、あれは俺? 『ほー色んな場所あんのなって、おわっ!?いきなりモブ死んだ!!いや、まじで??は?人族は殺されやすい?なんで殺したキャラが説明すんの!』 ぐちゃりとし、首が折れ大量の血を流す俺?の姿。その他にも同じ場面が続くが、始めのほうで案内してもらはないと選択すると、俺?は死ななかった。 でも、何故か色々な場所で俺?は死ぬ。 『なあ、このモブって毎回必ず死ぬの?生存ルートとか無いの?』 『んーどうだろう、このモブこのゲームじゃ主人公に対して人族は殺されやすいって説明用のキャラかも』 「つぁっ!!」 飛び起きた。心臓がバクバクとしている。 「…………多分、今の前世の記憶……?え、つまり俺って……」 毎回必ず死ぬモブキャラ!?…………難しいこと考えても駄目だな。 うーん、よし、眠いから明日起きて考えよ! 翌朝起きたら綺麗さっぱり忘れ、一年間龍国で、楽しく暮らした。 その事を思い出したのは、リュクスが俺の左手をとり、手の甲に口付けた時だった。 「へあっ!?」 「汝へ我がリュクス・アンディルゴの名により、龍の加護を与える」 ピリッとした痛みが走り、慌てて手の甲を見ると、リュクスと同じ植物の蔓のような痣が出ていた。それを見てリュクスは満足そうな表情をしている。 リュクス・アンディルゴというキャラクターはいなかったよな。 じゃあ、ここはゲームに似た世界なんだろうか?……うーん、でも、警戒はしておいた方がいいな。 俺は今年で八歳になる、猶予は約八年か。 「リュクス、また来るね!」 「楽しみに待っている」 それからリュクスと再会できたのは、学園へ入学した日だった。 「菘、手紙のやり取りはしていたから、久しぶりな感じはしないな!」 「確かに手紙はやり取りしたけど、会うのは久しぶりだよ!?なんで、龍国に来るなって、手紙でよこしたのさ。お陰であれから一度も行けなかったし?」 楽しみにしてたのに。手紙のやり取りはかなり頻繁にしていたけど。 「色々とあったのだ」 にっこりとするリュクスは、全身で何も聞くなと言っている気がした。 相変わらず艶のある黒い髪に金の瞳は健在で、幼い頃は青白く今にも倒れそうな雰囲気だった美少年は、今はただのヤバいくらい綺麗な美青年に成長していた。 「……綺麗すぎて、両目が潰れそう」 両手で両目を隠す仕草をすれば、リュクスは笑いぐしゃぐしゃと俺の頭を撫でた。
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