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前世の親友が諦めてくれない!?
【前世の親友が諦めてくれない!?】
春先の涼しさはどこへ行ったのか最近は暖かくというか、汗が滲むほど熱くなってきた今日この頃。
俺は目の前の美青年に、とても困っています。
「あのー何の用でしょうか、ゼノディア皇子?」
オルドガルド帝国の第7皇子様に壁ドンされているからだ。
「リジェルト・ハウンディード、結婚してくれ」
耳元で甘ったるい声で囁かれる、けれども。
「いい加減、諦めてくれないかな!?」
「何故? 今世は婚約者もいない、前世のような煩わしい政略結婚もないのだから、俺と結婚してくれても良いだろう?」
コテリ、と首を傾げるその姿は男なのにとても似合い、思わず頷きそうになる。
艶のあるさらりとした触り心地の良さそうな黒銀の髪、少しタレ目の金の瞳を持つ美青年。その視線をそこらの令嬢方に送れば、黄色い歓声をその身に浴びるだろうに、何故に俺に送る!!
「あのね、俺は男だからね? そもそも前世ではそんな素振り見せなかったよね!?」
「ああ、確かに見せなかったが『思い人には政略結婚だが、相手がいた。離婚したが、再婚する気が無いようなので見守る』と、言ったの覚えてないか?」
そんなこと言っていた、けど。
「お相手、どこぞの貴族令嬢って言ってなかったか!?」
「貴族令嬢だったろ」
貴族令嬢だったけれども! マナー習ったけど最低限! あれ、令嬢と言わない!! 確かに、養父は魔物殲滅隊統括隊長で子爵だったけれども、前世の俺は血の繫がりの無い養子だったから。
後継ぎとして、隊長を任されたけど……貴族令嬢ぽくはなかったよ。
「信じてもらえないのは分かっている。それでも本当に、前世から愛しているんだ。今世で記憶を持ち生まれた時、神に感謝したくらいだ」
「え゛……」
美青年は恍惚とした顔で話し出す。
「この学園に来たのだって『覚醒者』や『異界者』が集まりやすいからだ。本当に少等部から通って正解だった。今世の父を脅し……説得して良かったよ」
聞き捨てならないセリフが聞こえたが、気にしないぞ。忘れてた、この男、前世からこんな感じだった。あの時、思い人を見守るって聞いた時、悪いモノでも食べたのか? と思ったくらいだ。
余計なことを当時の俺はよく言わなかったな。
「で? リジェルト、性別の他に断る理由はあるのか?」
「え!?えーと、ゼノディア皇子はほら、皇族でしょ!? 皇帝様が許さないんじゃない!!」
不思議そうな顔をされ、同時に不満そうな顔をされる。
「説明しただろう? 父上は既に説得済みだ、と」
あー!! 説得という名の脅しね!!
前世のこいつの父親なら何とか……ならなかったな。うん、思い人がいるから結婚しない、言ってた。それでもしつこく言ってた連中は、とんでもない目に合わせられてたな。
壁ドンから抜け出す。あっさりと抜け出せるのはいつもの事。
「何度も言うけど、俺は男で、ゼノの思いには答えられない。それに、自分の子供をその腕に抱いてほしいんだ」
俺の前世は女性だった。政略結婚だが、自分が産んだ子をこの手に抱いたこともある。その時の歓喜は、今でも夢で鮮明に思い出すほど覚えている。
「子供好きだったじゃないか。前世の俺の子の面倒をよく見て可愛がってくれただろう?」
そう伝えると、前世でも見たことの無いほどその美しい顔から感情が抜け落ちた。
「色々な事を理由に断っていると思えば、そう言う事か」
「ゼノディア……?」
「子供が好き? 違うな。俺が可愛がったのは”お前の血を引いた、お前に似た顔立ちの子供”だったからだ。誰が好んで、他者の血を引く子を愛でる必要がある?」
そういい、口角を上げ無表情に笑う姿に思わず怯え、体が震え距離を取ってしまう。
「リジェルト、忘れているようだが、俺の前世は龍族だぞ? 龍族の、特に雄は他者の子は愛でることはない。最愛の伴侶の子だからこそ、愛でる。お前は気付いていなかったが、当時の者達は俺の思い人には気付いていたぞ?」
本当に他人の感情に鈍いなぁ、とゼノディアは笑う。
「ここまで言えば分かるな? 今世の俺も龍族だ。二世代分の思いは重いぞ? 結婚しよう」
「いや、お断りします!」
まったく、怯えてしまうとは自分が情けない。両手で頬を思い切り叩き気合を入れ、キョトンとしたゼノディアを見る。
「ゼノディアが俺の事を前世から好いてくれたのは分かった、けど! 俺にとっては前世からの大事な親友としか思ってないし、絶対にゼノには自分の子供を抱いてほしいと思っている!! それに、前世が俺の事を好きであって、今世のその感情は引きずられているだけの勘違いじゃないかと俺は思う!!」
それに、前世の俺は異性に好かれるほどの女性ではなかった! 自分勝手だし、頭は悪いし、容姿も顔に大きな傷があった。挙句の果てに政略結婚した夫に言われたからな『お前のような傷だらけの女なぞ、政略結婚以外に引き取り手など無い』てな!!
「……ほぉ? 勘違いだと……」
わーいい笑顔。
「だって、俺のどこが良いんだ? 前世と違うのは、身体に傷が無いだけで後は平凡だろ?」
「自覚が無いのも困るな」
先程までの怖い表情はなりを潜め、いつもの柔和なものへと変わる。
「そのままでいてくれ、さぁ、結婚し愛し合って暮らそう」
「しつこいな!」
「仕方がない。前世で叶えられなかった夢が、今世で叶える事が出来るんだ。諦めてくれ」
にっこりと笑うゼノディア。その金眼の瞳孔を縦長にし俺を見るその目は捕食者だった。
今までのが可愛く見えるほど、翌日からの迫り方がエグくなるのをこの時の俺は知らない。
ーーーー
【前世の二人を知る三人】
「おー漸く本気出すみたいだぞ?」
「やっとかーはらはらしたぜー」
「そもそも、前世であそこまで求愛されて気付かない隊長が悪くない?」
「「隊長だから仕方ない!!」」
脳筋だったしねーと三人で笑い合う三人組を見て、通りがかった一般生徒はぎょっとし、そそくさと逃げる。関わりたくない、という顔だ。
それぞれ首から下げているカードキーは、全員赤で一部に黒が入っている。つまり王族、もしくは本人が危険な『覚醒者』か『異界者』であることを指している。
「あーさっさと諦めて、お付き合いして、結婚しないかな」
「むりじゃねー? たいちょーだし」
「龍族は一途で執念深い、諦めるほかない」
「「あー……」」
走って逃げ始めた隊長、彼を見る。思い出した貴方が悪いんですよ?
強制的に思い出させられた貴方は、僕達の存在を感知できない。それを聞いたとき、絶望しました。特に、今貴方を追いかけている方なんて、それをした者を葬ろうとしましたからね。
「いつまで逃げられますかね?」
まあ、僕は貴方を幸せにしくれる方なら、何方でも良いんですよ。
ああでも、一つだけ我儘を言うなら。貴方の前世の夫以外でお願いします。あの男は見るだけで殺したくなる。
ーーーー
どうでもいい設定
この世界では前世の記憶を持つ人はそこそこ生まれます
『覚醒者』はこの世界の記憶がある転生者
『異界者』は別の世界の記憶がある転生者
生まれた時から記憶を持つ『保持型』
途中で思い出す『思い出し型』
夢や白昼夢で体験し思い出す『体感型』
そして世界共通で禁止されているのが『強制型』
二人が通っているのは『覚醒者』や『異界者』が多く通う学園です
申請式なので黙っている人もいます
生徒手帳代わりにカードキーが渡されます
白色のカードは一般生徒
金色のカードは役職持ちの生徒(生徒会や風紀委員)
銀色のカードは部活動の部長、副部長など
黒色のカードは『覚醒者』や『異界者』など
赤色のカードは自国の王族や他国の王族など……あとは関わるな危険! という人物が持っています
橙色のカードは教師です
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