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ユズ狩りボランティアで仲良くなった下級生達と肉を焼き、疲れた身体にしみ渡るアルコールも摂取した。久々のビールは苦さが舌に残る。
メンバーは年齢も学部もバラバラだったけれど、その中で同じ目標に向かって協力する活動をするのはいい経験になったことだろう。
正直に言うと、俺はユズをナメているフシがあった。
ただ、ユズを収穫すればいい。力はあるし、カゴいっぱいする事など容易いと思っていた。
しかし、奴らは抵抗するのだ。拳ではなく、トゲの方で。何より厄介なのは、平気で軍手を貫通する武器の鋭さ。何のための軍手やねん!手を守るためちゃうんか!と苦々しく思っていた。
そんな俺にも、平井地区に住む住民の方が優しく手ほどきを教えてくれた。打ち解けた頃に収穫作業が終わってしまうのは何とも名残惜しい。
ワイワイと賑やかな団欒の中でふと思う。学生生活も残りあと4ヶ月を切った。内定は第一希望の東京の商社に決まっている。
こういう楽しみも、きっと無くなる。来年の今頃は、社会の波に流されないように歯を食いしばっている気がする。もはや、今喋っている関西弁すらも抜けてしまっているかもしれない。
「え、待って!星やばない!?」
同じバーベキューコンロを囲んでいた、下級生の女子が声を急に上げる。
声に反応してふと首を上げると、大都会・大阪では考えられないほどの星たちが一面に敷き詰められていた。明るい星だけでなく、細かな小さな星屑も肉眼で確認できる。思わず俺も「すげぇ…」と感想が漏れる。こんな星空、生まれて初めてだった。
せいぜいあっちで見えるのは宵の明星と呼ばれる金星や一等星と言われる一番明るい星ぐらい。
そういえば、平井地区には平井川という小さな川が注いでいて、町の中央を流れる清流「古座川」の源流の一つなんだと集落のおばちゃんが教えてくれた。
平井川が太平洋へ流れ出る古座川の源みたいに、あの星達も山あいに囲まれたここから生まれて空へ流れ出してたらいいな、と思った。
バーベキュー会も盛り上がりを増してきた喧騒から俺は少し外れて、庁舎へ続いている坂を下り始める。少しずつ学生の歓声が遠くなっていく。
離れていくと夜空の色が先程よりもっと濃くなり、庁舎前よりも星の数が増えた気がする。
…もっと、この星空を堪能していたい。
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