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さっき、昴が説明していた。どうやら、一等星には『名前』が付けられているらしい。中学の授業で夏の大三角とかうっすらやったかもしれない。記憶があるようなないような。もう24歳になって、10年前以上の授業など記憶の彼方だ。
名もなき小さな星達は『六等星』という括りに勝手に分類されて、この空に浮かんでいる。ここ平井地区だと、ちゃんと六等星も確認できるのだ。
でも、この星達は眠らない街・大都会だと夜景やネオンに負けて、姿がかき消されてしまう。夜空でちゃんと光っているのに、そこに存在しているのに、いないことになっているのだ。
そんな星たちを見て、俺は隣で寝転ぶ昴の名前を小さく呼んだ。昴は声のトーンで何かを察したのか、俺が話を切り出すまで黙っていた。
「一等星は六等星より100倍も光を出しているから当たり前かもしれんけど、東京行っても見えるんよな。コイツら六等星ってさ、十中八九ここでしか見えんやん?
そう思ったらなんか…俺も不安になってさ」
不安?と昴が聞き返す。さっきビールを飲んだはずなのに、急に喉が乾いた気がした。喉の奥が水を欲しがるようにギュッと鳴る。
「…東京行ったら、駆け出しの新社会人なんかちっぽけ過ぎるやん。環境も変わる。喋りも違う。知らんことだらけや。
この六等星みたいに、小さな光じゃ東京行っても埋もれて見えんくなって…自分見失いそうで。
俺ら、ちゃんと確かに存在してるのに、見えへんなるんか?って思うと」
絞り出すように呟く俺を見て、昴が身体を起こしてあぐらを組む。それにつられて俺も姿勢を正した。
「東京行きたないんか?」
「いや、そういうわけじゃない。むしろ就職決まった時はめっちゃ楽しみにしてたんやけど…」
昴にこんな弱気な自分をさらけ出すつもりはなかった。昔からいつも大声で笑ってて、ふざけている子供だった。でも、本当の自分はビビりで小心者。そんな一面を隠すために、ピエロの仮面をかぶり続けていた。
その素行から、いい加減にしろ!真面目にしなさい!と幾度となく親や教師から怒られていた。その分、おふざけは辞めることなく、やらなきゃいけない事については努力はしてきたつもりだ。
だからこそ、今の佐藤海翔が形成されている。もっとも、ビビりが解消されているわけではないが。
「いや…まぁ。ふと、あの小さい星見てたら急にセンチメンタルになってもうたわ」
やはり妙にシラケた雰囲気になってしまったので、バツが悪くなって少し自分自身を冷やかす。そんな見え透いた思考は昴にはお見通しのようで、追撃される。
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