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と私はゆっくりと顔を上げつつ、早速質問をしようと思っていたのだが、上げきったその時、ふと以前に話を聞いていたのを思い出し、直前になって問いかける内容を変更した。
「…あっ、こないだチョロッとあなたが話していた、武史さんとの共著がようやく完成したのね?」
と聞くと、「あはは、よく覚えていてくれたねぇ」とテーブルに肘をついて、顎を手に乗せながら朗らかに笑いつつ言った。
「ふふ、そう。それはまぁ今までのとは違って、僕と武史が普段からしている雑談を文字起こししただけ…というと雑過ぎるけれど、まぁそんな対談本なんだ」
義一はここで一旦紅茶で唇を濡らしてから続ける。
「本の名前は出版社が決めるんだけれど、確かに内容としては、まさにそのまんまだから、僕も武史としても不満は無いんだ」
「へぇー、そうなんだ…」
と私は表紙と裏表紙を何度も本をひっくり返しながら見つつ相槌を打った。
それから試しに目次を開いて見ている間も、義一は話を続けた。
「ただ…ふふ、せっかく『反グローバリズム論』だなんて立派な題名を付けてくれたのに、中身は雑談がほとんどだ から…ふふ、だったらもう少しキチンと纏めた議論をしたのにって、そんな意味では不満というか、もう少し手を入れたかったなって今思うんだけれどねぇ」
と話す義一の顔には、参り顔が浮かんでいたが、そんな様子が可愛らしく思えた私は、「ふふ、そうなんだ」と合いの手を入れつつ、パタンと本を閉じて、テーブルの内で自分側の空いているスペースに置くと、「ところで、これって…」と私はわざとらしく上目遣いになりながら勿体ぶりつつ口を開いた。
「…ふふ、私が貰っても良いの…かな?」
「…」
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