変化 琴音編 ❶

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と、義一の方でも澄まし顔ですぐには答えてくれなかったが、しかしそんな自分にウケてしまったらしく、クスッと小さく吹き出すと、「うん、勿論」と柔らかな笑みを浮かべつつ返してくれた。 「むしろ、良かったら貰ってくれるかな?」 と付け加える義一に対して、「ふふ、もーう…」と私は今度は苦笑交じりに返した。 「毎回言ってるでしょう?あなたの出す本は、全て洩れなく読みたいんだから。…ふふ、愚問ってものよ」 と最後は目をぎゅっと瞑って見せつつ、同時に敢えて誇らしげに胸を張りながら言い終えると、「あはは」と義一は明るく笑った後で「ありがとう」とお礼を付け加えた。 「いーえー、こちらこそ読ませて貰うね。…うん、私からも連絡するけれど、武史さんにもよろしく」と言いながら、持って来ていたトートバッグに本を丁寧にしまうと、「うん、分かった。伝えておくね」と義一は微笑み交じりに答えてくれた。 それからは、義一とこの本に関連した雑談に花が咲いたのだが、一つワクワクする話をその中でしてくれた。 というのも、今度この本が出版されるというので、その出版記念に、新宿に本店がある有名な本屋のブースでイベントをするというのだ。 本来はというか、義一の処女作である『自由貿易の罠』がいきなりの大好評を得たというので、何度も出版記念講演を頼まれていた…とは武史から聞いていたのだが、私が言うのもなんだが同じように人前に出るのを好まない性分故に、義一は今まで断る続けてきていた。それは勿論、二作目の『新論』にしても、三作目の『国力経済論』、同時発売だった四作目の『貨幣について』にしても同じ事だった。
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