変化 琴音編 ❶

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『詩でしょ?』まで続けて言おうと思ったのだが、自分で思った以上に照れてしまい言葉が途切れてしまった。 それを見兼ねた義一はすぐに助け舟を出してくれた。微笑み交じりだ。 「ふふ、そうだよ」 と義一はさっぱりとした顔で笑いながら、プリントの束を自分寄りのテーブルの上に置きつつ言った。 「まぁ…ふふ、まどろっこしい前置きは抜きにして、いきなり本題というか、今プレゼントした新著以上にある意味大事な、君にわざわざ来てもらった用件なんだけれど…こないだチラッと確認というか聞いたの覚えてるかな?」 とここで義一は、チラッと手を上に置いたままのプリント束に目を落としながら続けた。 「…君の書いたこの詩集や、君が言うところの『夢ノート』、後は日常で疑問に思ったことを書き留めて、それに対する意見を纏めた『徒然日記』」 「えぇ。…って、え?徒然…日記?」 唐突に現れた聞き慣れない単語に私が聞き返すと、義一は途端に初めはスマなさそうな、照れ臭そうな表情で答えた。 「あはは…うん。君は単なる”日記”だと言ってたけれど、読んでいる時にね、内容的にふとさ、清少納言の”枕草子”、鴨長明の”方丈記”と共に、日本三大随筆の一つに数えられている、吉田兼好の”徒然草”を思い出したんだ」 「あ、あー…その”徒然”なのね」と私がすぐに納得がいった勢いのままに合いの手を入れると、義一は苦笑交じりから、徐々に悪戯小僧よろしい笑顔で答えた。 「ふふ、そう。君には説明するまでも無いけれど、”徒然”というのはそもそも、変化が無いせいで退屈してしまう、手持ち無沙汰な事をさす言葉だよね?」 「えぇ」 「それでね…ふふ、君の日記を読んでいる時にさ…不意にね、誰でも一度は聞いた事がある徒然草の冒頭部分を思い出したんだよ。
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