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『つれづれなるままに、日暮し、硯にむかひて、心にうつしゆくよしなしごとを、そこはかとなく書きつくれば、あやしうこそものぐるほしけれ』とね」
「あー…ふふふ。『することもなく、手持ち無沙汰なのに任せて、一日中、硯に向かって、心の中に浮かんでは消えていく取り留めも無いことを、あてもなく書きつけていると、熱中するあまりに異常なほど、狂ったような気持ちになるものだ』って意味よね」
私たち二人の間では確認は必要無かったのだが、すかさず何となく自分なりの現代語訳を差し入れてみると、義一は満足げに笑みを強めつつ口を開いた。
「ふふ、そうそう。まぁ…うん、察しの良い君の事だからもう分かってるだろうけれど、『暇つぶしに日常を生きていて、目についた疑問をツラツラと書き殴っただけだよ』って、君が謙遜を含めて言ってたのを覚えていてね?」
「…ふふ、本当に記憶力お化けというか、そんなくだらない事まで覚えてるんだからなぁ」
と、本心では尊敬の念に近い感情を持っていたのだが、表面上はこの通りに呆れ笑いを浮かべておいた。
そんな反応には慣れっこな義一は、ケラケラと一度明るく笑ってから先を続けた。
「いやぁ、あははは。…あ、でね?その言い方というか、それが今引用した徒然草そのものじゃないかって事に気づいてね、それにあやかって『徒然日記』と名前を付けちゃったんだ。だめ…かな?」
と義一が少し首を傾げつつ聞いてきたのを見て、その様子が何だか子供っぽく、しかし何故か自分の年齢よりも一回り以上の男がしてるというのに、それが何だか可愛らしく思えて、自然と笑顔になってしまいながら答えた。
「…ふふふ、ダメも何も義一さん、あなたが覚えていた通り、私としては本当に徒然なるままに書き殴っただけなんだし、むしろそんなものに対して立派な名称をくれたものだから、恐縮するってものだよ。そんな意味では困るは困るけれど…」
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