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そんな関係は僕も君も大人になるまで変わらなかったな
変わったのは
忘れもしないあの日
僕は戦闘機に乗ると決まり、門出の祝いを家でしていた時だ。
つまらない話だが
心底君に惚れていた僕は
伴侶を娶ることもせず、後継ぎもなしに戦場へ出向こうとしていた。
君への思いのため、国への思いのため
それを正しいと信じて疑わなかった。
けれど、ふとあの通学路で見た
君の横顔が懐かしく思えて
宴も静まった満月の輝く夜のこと
こっそり君の家に行ったのだ。
あれから話したこともなく
君もいい年だったから、もう嫁いでいるだろうと思っていた。
ただ見られればそれでよし、見られなくてもそれはそれでいいと
僕は気まぐれに行ったのだ。
今のように当たり前に電灯のない時代
月明かりは忍び込んだ君の家に降り注いでいた。
その光を受けて君はいた。
そして、泣いていた。
母親の胸を借りながら、激しく慟哭していた。
今でも理由はわからない。
その時の僕には、涙の理由を聞く立場も、君の涙を受け止める勇気もなかったから。
月の光に照らされて、僕は不甲斐なさに胸が押しつぶされた。
国を、君を守るなど笑い種だ。
現に苦しんでいる君を
僕はどうすることもできなかった。
無力だった。
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