0人が本棚に入れています
本棚に追加
カナリアの涙-1p -猫の瞳に映る不思議な恋物語ー 制作:kaze to kumo club
「こんなの……おもしろくないよ!」
カナリヤは言った。
「なんでさ……? けっこうおもろかったぜ、俺は……?」
映画が終わり、字幕のタラップが流れていた。
ビデオは時期に止まるだろう。
でも、俺はカナリヤの意見に不満だった。
めずらしくムキになって、言い返してみた。
「これはアカデミー賞取った名作なんだぜ、感動すんじゃん……」
「どこがよ!だいたい潔癖性の恋愛小説家なんているわけないわよ」
「だから…、ドラマなんだよ、これは……」
「そうかしら?ドラマなら、どうしてエビにこだわるのよ! あのオジンは……変よ! 私なら、それだけで”ブーブー”だわ! バカみたい!」
我が愛しき妻であるカナリヤは、取り付く暇も与えずに……台所へと去っていった。
俺は不思議だった。
この『恋愛小説家』は誰もがステキだと言うラブコメディだ。
今度こそカナリアのやつを泣かせてやれると思ったのに……。
ガッカリだよ……まったく……。
俺達が結婚して2年あまりの間、
さんざんラブストーリーを見て来たが……今だ一度として……カナリアが驚嘆した恋愛映画はない。
それどころか……小説やマンガ、文芸作品、芝居にいたるまで、カナリアの眼から涙がこぼれた試しはないのだ。
『冷たい女』……。
職場の大号でも、有名だった。
手芸専門店として……各地にチェーン店を持つ……我が社は歴史の深い老舗だった。その本店に、何とか、もぐりこめた俺が……彼女とはじめて出会ったのは、なんと……社長室で!? しかも、最悪な出会いだった。
「どちら様ですか?あなた!」
「は、はい、本日、福岡支店から転任して参りました、営業3課の雲山です」
「ああ~、イノシシ営業のバカって……あんたの事……?」
俺はムッとした。
俺の業績を妬むやつらがそうー呼んでいるのは知っていたが、20才そこそこのガキにいわれたかない。
だが、その時はグッと堪えたのを今でもよく覚えている。
結果、それは正解だった。
のちに……彼女の正体がすぐにわかったからだ。
キャリアウーマンを地で行く……バリバリのやり手だったのだ。
「あんときは……こわかったよな~、あいつ……」
台所に立つカナリヤの後ろ姿は、とてもスラリとした若女房で、そんなそぶりは……微塵も感じられいない。
いい女だ……。
俺の顔はいつのまにか、にやけていた。
当時、秘書をしていた彼女は美しいながらも、とても怖い存在だった。その上……彼女は社長の1人娘で、秘書課のお局様……と呼ばれていたのだ。
つまり、とても、この俺がつきあえるような相手ではなかったわけ。
だが、運命とは不思議なものだ。
俺達を結びつけたものは……映画だった。
それも……、ホラー映画!?
リバイバルの『エクソシスト』特別編だったから……笑える。
偶然、休みの日曜にバッタリと映画館の前で会うなんて…。世も末だ……。
「なにしてんの、あんた……? イノシシ狩り……?」
俺を見るなり、カナリアは笑いながら言った。
俺の格好がまるで……狩りにでかけるマタギのようだったかららしい……?!
しかし、俺にとっては……大きめのダウンジャケットに黒めの革ジャン。
別に……マタギなんかじゃない。
彼女はおかまいなしに大声で笑った。
くやしい話しだが……その時、俺はかわいいと思ってしまったのだ。
なぜか……?
-1p-
最初のコメントを投稿しよう!