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カナリアの涙-10p完結 -猫の瞳に映る不思議な恋物語ー 制作:kaze to kumo club
さらに、半年が過ぎようとしていた。
忙しさにかまけて、俺はその女性の事を忘れようと努めた。
ところが、決して忘れぬやつがいた!
ちゃかりキャットフードをせしめた、バカ猫のやつだ!
しかも、なんと定期便で……だ!
半年前の奇跡的出会い以来、
その女性、
『水川景子さん』がカナリアのために……
わざわざ運んで来てくれているのだ。
極上のキャットフードを……??
もっとも、彼女の職場が……有名スーパーであったことも由来するが……。
「無理なさらずに……」と……俺が申し訳なさそうに言うと、
彼女はいつもこういって……笑いかけるのだ。
「どうせ、売れ残りの期限切れなんですよ……雲山さん。
気にしないでください! 店にも承諾済みですから……」
はつらつとした彼女の笑顔に……この俺が逆らえるわけがない。
そのまま、
ズルズルと……数少ない友人の1人となって行ったのだった。
す・ベ・て……迷惑なバカ猫のせいだ!
俺はそう思うことに決めている。
カナリアは、なにくわぬ顔で……今も眠っている。
しかし、感謝の念がないわけでもない。
俺の氷りついた心が少しずつ、
溶け始めている事は……確かなようだから……?!
そんなある日の事だった。
「これ、見させてもらってもいいですか? 雲山さん」
「えっ?」
台所でカナリアと……餌の配分について、
果てしない議論していた俺は……顔をあげた。
景子さんがビデオをふりかざして言った。
あのビデオだ!
そう、最後に妻と見た……『恋愛小説家』だ。
俺の顔は極端に曇って行く。
「ダメ……ですか?」
27才の色っぽい声で……水川景子さんは……
困った顔をしながら……つぶやいた。
「イッ、イヤイヤ! いいですとも……景子さん。
ぜひ、見てくださいよ。 いい映画ですから……ハハハハ……」
瞬間、心に痛みが走った。
まだ、罪の意識は……薄れていなかったんのか?
それを悟られまいと、さらに陽気に……俺は叫んだ。
「や、やっぱり、景子さんも……ラブストーリーが……お好きなんですか?
私はてっきり……サスペンス派だと思ってましたが……? ハハハハ……」
”なにを言っているんだ、俺は……? 顔、引き吊ってる!?”
皿をふくまねをしながら、
心の痛みが去るのを……ひたすら待つ以外なかった。
ところが、
以外な返事が帰って来た。
「あら、私……あまりラブストーリーは見ないんですよ。泣けないから……」
「へっ?」
「やっぱり、映画は……SFか、ホラーですよ。雲山さん!
だって……映画ならではの迫力、あるじゃないですか!
そう、思いません……?」
彼女の笑顔は昔見た……なつかしい映画のようだった。
そのセピアなワン・ショットに魅せられたのか……?
つい俺は聞いてしまった。
ずっと昔から……解けなかった疑問を……。
「なっ、なぜ、泣けないんですか、景子さん……?
ラブストーリーが……嫌いだから……?
そ、それとも……
自分が……不幸に思えるからですか……?」
”しまった! なんて……ばかな事を……??”
俺は舌をかんだ。
彼女が前の男にひどい仕打ちをされた事を……すっかり忘れていた。
”傷つけた、また大切な人を……”
そう思った時、
水川景子は力強く……誇らしげに……言ってくれた。
「いいえ、違いますよ、雲山さん!
自分が幸せすぎるから……ラブストーリーがうそっぽく見えるんですよ。
作りものの愛が……本当の愛にかなうわけないじゃないですか!
だからです。
私が泣けないのは……」
ポタポタと音がした。
俺は……泣いていた。
心が許されたかのように……涙が溢れ出していたのだ。
”そうか……。
そんな風に思える人がいるなんて……
俺は知らなかった……”
『ミャ~オン』
猫のカナリアが……俺の足にすりよりながら……泣いた。
”ありがとう…、カナリアよ。
君はオバケにならずに……
猫になって俺の誤りを……
正しに来てくれたんのか……?”
俺は……素直に……そう思えた。
たとえ……真実でなくてもいい。
そう……感じられる自分を……愛したい。
そして……
この新たな女性(ひと)も……。
「どうしたんですか、雲山さん……?
なにか……私、まずい事……言いました……?」
涙をぼろぼろと流す俺を見て、
若いカナリアは……困り果てている。
だから、安心させるつもりで言った。
「景子さん……。
もしかして……ひとつだけ、
思いきり泣けたホラー映画が……ありませんでしたか?」
「は、はい……。
『ゾンビ』って言う……映画ですけど……。
それが……なにか……??」
その後、
俺は5年分の……大笑いをしていた。
目から大粒の涙を……こぼしながら……。
そして、
猫のカナリアは……退屈そうに
自分の餌入れを……手で転がしていた。
『餌、くれよ』……のサイン。
それは……『幸せがすぐそこまで来ているよ』と言う……
サインでもあったのだ。
笑えるほどのに……いとおしいほどの……
かわいい……俺のカナリアが……微かに……泣いていた。
10P
完結
ご愛読、誠にありがとうございました!
では、また見てね!
(*^▽^)ノ
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