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カナリアの涙-7p -猫の瞳に映る不思議な恋物語ー 制作:kaze to kumo club
「悲しいラブストーリーでしたね……秀樹さん……」
その女性はハンカチで鼻をすすりながら、涙をふいていた。
「そうですね……とても悲しい話だった……」
でも、俺の顔には涙など……微塵もなかった。
なんだか、ものたりなさを感じていた。
なぜだろう…?
あれほどラブストーリーに泣く女性を夢見ていたのに……?
”変だよ……これって……??”
心がうなだれた。
急にカナリヤを抱き締めたくなった。
あいつは今頃、お昼寝かな?
それとも、また、ヒスでも起こしているのか?
”なら、ありがたい……。
彼女の生まれ変わりだと……確信できるじゃないか?
ホラー好きのカナリアが企てそうな演出だ!
さあー、化けて出てくれよ……我が妻よ!
そして……この憎き俺をつれていけ!”
ばかげている事はわかっている。
だが、それがどうした!
俺はあいつに会いたいんだ!
ただ……それだけなんだ。
なにも知らないこの女性が……あわれにさえ思えてきた。
「秀樹さんの亡くなった奥様って……どんな方だったんですか?」
人ゴミにあふれる正午のファミレスで、その女性は唐突に聞いて来た。
若さゆえに……その聞き方が、どこか……トゲガあるように感じられた。
俺は目をふせた。
相手を傷つけぬように……。
手元には、まだ手付かずのミートローフが湯気を立てている。
「それは……」
「綺麗な人だったんでしょう? 私みたいに……?」
スパゲッティーをほうばりながら、若い無神経なその女性は
上目ずかいに……俺の反応を見ていた。
笑いながら……。
「イヤ……君のようには……泣けない人だったよ。
特に…ラブストーリーでは……ね」
窓の外をみるふりをしながら、俺は吐き捨てるように言った。
「へエー、そうなんだ……。寂しい人だったんですね」
まるで……もう夫婦かのように、その女はなれなれしくつぶやいてみせた。
「なに?」
思わず、俺はきびすを返した。
侮辱の臭いがした。
女はスープを飲みながら、隣の若い男を見ている。
そして、感心なさそうに……言った。
「きっと、幸せじゃ~なかったのね……それって……」
めまいがした。
突然、俺の世界が崩れたのだ。
”う、うそだ!
カナリアは……、
俺の妻は………、絶対…幸せだったんだ……”
40近い男の脳裏に……深い霧がたちこめていた。
泣かないカナリヤ……? あわれな事故……?
それはすべて……俺のせい……?
考えもしなかった落とし穴。
一気に……
気ずかなかった自分に対する怒りが……俺を襲った。
「どうしたんですか、秀樹さん? ミートローフ、冷めますよ……?」
その器からは……もはや、湯気など立たちようがなかった。
決して……。
-7p-
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