可愛い嫁が、綺麗になる

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可愛い嫁が、綺麗になる

「お帰りなさい」  仕事でクタクタになった俺を出迎えてくれたのは、俺の可愛いお嫁さん。結婚して5年、付き合ってから考えると10年以上という月日が経つが、俺たちは変わらなかった。  嫁である美代は、昔から甘えん坊で気配り上手。いつでも俺が大好きで、帰宅する度にハグを強請ってくる。 「悠、ぎゅーは?」  スーツを脱いだ俺にハグを強請る。ヘトヘトになって、機嫌が悪ければこれはないし、俺の体調にも気を使ってくれる。 「はいはい」  言われた通り広げられた両手の中に飛び込めば嬉しそうに顔を緩める。子犬のように俺の胸に擦り寄り、それこそ尻尾があればブンブンと喜びで振っているだろう。  30歳近い彼女だが、昔から年上に見られることもあってか、容姿は止まったままに見える。勿論髪を染めたり、化粧が変わったりはあるが、俺からしたら可愛いまま。 「ご飯出来てるよ」  自分もフルタイムの正社員にも関わらず、晩ご飯は必ず作ってくれる。俺好みの味になった味噌汁、砂糖から出汁の味に変わった卵焼き、いい焼き加減の鮭、鶏肉と小松菜の炒め物。炭水化物は夜は抜くので、白米はないが、十分腹が脹れる量。  テーブルを挟んで2人で手を合わせ「いただきます」の挨拶。ご飯中は互いの仕事の話や、愚痴が主だ。  俺ら以上に順風満帆な夫婦を、俺は知らない。とても幸せな生活を送っている。 「ん、卵焼き美味しい」 「あ、本当?新しい出汁を使ってみたの。よかった」  ほっこりと笑う美代は、誰がどう見てもいい嫁さん。口煩くもないし、あれこれ口を出してこない。いい距離を保ちつつも、互いが互いを愛し合っていた。  そして俺はふと、ある事に気付いた。30も近いので、最近少し太ってきたかな、と思われた美代。しかしその輪郭もくっきりとし、よく見れば脚もほっそりとしている。 「美代、ジムでも通ったの?」 「ううん。おうちで時間あるとき、踊ったり筋トレしてるの。最近ちょっと太っちゃったでしょ?」  恥ずかしそうに笑う美代。更に肌をよく見れば、ツヤツヤになっており、ダイエットはいい方向に成功したのだと見える。 「最近、キレイになった?」  そう伝えれば、彼女は笑うと思っていた。いつものようにはにかんだ笑顔になると、思った。 「そう?」  彼女は何故か見たことも無い、妖艶な顔で笑った。違和感があるそれに、俺は何も気付かない振りをして笑った。 「女の子は、好きな人が出来ればキレイになるんだよ」  そう言って彼女は、また大人びた笑いを見せたのだった。
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