新幹線

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「京都、初めてなんですか?」 狐狸カップルに話掛けてみた。 「はい、そうなんですよ」 狸が愉快そうに答える。 狸はたぬお 狐はきつえ と名乗った。 二人はカップルで京都に初めて行くらしい。 話をしていると、 皆、狸山狐谷駅が存在するのは知っているが あえて知らないふりをする。 と教えてくれた。 だから自分の認識してた時刻表と ずれていたのか。 「そうなんですね、一瞬狸にでも化かされた のかと思いましたよ」 軽い冗談のつもりだったが、 狐と狸満載で、どんちゃん騒ぎ寸前の 車内が一瞬で静まる。 シーーーーーン。ぱしゃり タイミング悪く隣列のカップルが 自撮りしたようだ。 それはともかく、車両中の狸と狐がこちらをじっと見詰めてくる。 「な、なにか?」 「何かだと?この人公がよぉ!」 酒瓶片手に後ろから狐が怒鳴ってくる。 な、なぜ怒っているのだろうか。 「あちゃー、言っちゃいましたね」 狸のたぬおがいかにも あちゃーな顔をして教えてくれた。 狐達は先程自分が「狸にでも騙された」 と言ったのが許せないらしい。 人を化かすのは狐だー! と狐達は大合唱。 それに負けじと狸達も ポンポコポーーン! と意味不明に叫んでいる。 「いちいち細かいなあ」 たぬおが愚痴る。 あれ?怒ってない?  周りの狸達の様子から怒っているものと 思っていたが、 たぬおはおにぎりをはむはむと食べ きつえは本を優雅に読んでいる。 私の疑問の視線に気づいたのか 「あぁ、私達は気にしてないですよ。 騒いでるのは一部だけです」 たぬおが狸と狐の歴史を教えてくれた。 狸と狐は昔から、 神様達の元に争いはせず暮らしていた。 しかし、けっして険悪という訳でもなく、 たぬおときつえのようなカップルも 居ることには居るらしい。 確かに周りを見てみると 狸と狐はもう仲良く宴会を始めていた。 どんちゃん騒ぎの中、 二匹と初めての京都に 期待を膨らませていると、 『えー、まもなく京都、 京都に到着致します』 車内アナウンスが到着を教えてくれた。 外を見ると、 景色は山から街に変わっていた。 すっかり夜の中、 煌々と輝く街は期待以上だ。 何かが空を飛んでいて、 とてつもなく巨大な鳥居も見える。 「きれ~い!」 興奮したきつえが窓際に座る 自分の膝に乗ってくる。 鼻先を窓に付けて景色に見入っている。 「ちょっと、落ち着きな」 たぬおが注意する。 「別に良いですよ。軽いですし」 しゅんとするきつえに言うと、 「じゃあ遠慮なく!」 たぬおも膝に乗ってきた。 たぬおは結構重かった。
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