7の乱

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7の乱

 前後していた指が、ピタッと止まる。 「じゃあ、トントンしますね」  ゴクリと唾をのむ敦人の、興奮した声。  それを耳が拾い上げてすぐ、衝撃は訪れた。 「あぁっ、あ、あ……ッ」  宣言通り、指がどこぞを叩き始める。すると壊れたように腰が震え、喉からは抑えることのできない喘ぎがほとばしった。 「うあっ、あ、やめ……敦人ぉっ、そこ、嫌だってっ」 「うん、気持ちいいですね」 「や、あっ、んん! んぐっ、うあ、あっ」  初めて聞く自分のとろけきった声が嫌で、手近なところにある枕を引っつかんで顔を埋める。しかし無情にも、それは敦人に奪われてポイとベッドの外へ放られてしまった。 「俺ヤキモチ妬きなんです。俺以外にキスしないで?」 「ひ、ンンッ、んぁっ、あ」 「かーわいい。じゃあ次は、ちょっと強くグニグニしますよ。少しだけ頑張って」 「あ……っ! ぅあっ、駄目、ホントに駄目っだか、ら」  叩いていただけの指が、今度はその部分を押さえながら前後左右に動く。いじられている箇所がじくじくと熱を帯び、解し始めて以降、一切触れられていない性器からは大量のカウパーが滴り落ちた。  腰が動くと鈴口がシーツに擦れ、しびれるような快感で頭がおかしくなりそうだ。 「ご、ごめん、やだ、敦人……っも、いい」 「大丈夫ですよ。一回上手にイケたら、少し休憩しましょうね」 「無理、ぃ……っんん、ごめ、ごめん……っ」  何を謝っているのか、自分でもわからない。  みっともないのに止まらない涙を、敦人の手が拭って頭を撫でた。 「ナカ、すっごい動いてます……俺の指に、気持ちいいよって吸いついてきて、めちゃくちゃ可愛い」 「んンっ」  肩甲骨に軽く歯を立てられたかと思えば、背骨に沿って舌が這う。熱くぬめった生き物が好き放題に動いているようで、ゾクゾクと劣情が込み上げた。 「……ぁ、つと、駄目、なんかっ……変ッ」 「変じゃないです。イって?」  後ろは変わらず前立腺をいじくられ、背中には唇が、そして退屈そうにさ迷った指先が、ちょうどそばにあった乳首をこねる。  小さく扱いにくい突起を器用につまんでくりくりとなぶられると、言いようのない射精感がせぐり上がってきた。カクカクと腰が動き、出すことで思考が埋め尽くされていく。 「ひぁっ、あ、イク……っ、イク、イクッ」 「エッロ……」 「ああ、あっ……んぅっイイ……ッあ、出てる、敦人……ッ」  胸倉をつかみ上げられて、どこか遠くへ放り投げられるような絶頂だった。どんなオナニーでも、こんな快感を得たことはない。  その瞬間に自分が何を口走り、どんな速さで呼吸して、どれくらいシーツにぶちまけたのか、全てが意識の外側にあるようだった。 「んんっ」  じゅるんと指が抜け、身体を仰向けに転がされる。一切の抵抗ができない文哉は、されるがままに手足を投げ出していた。 「ぁ……あつ、と」 「はい。……よくできました。いい子ですね、文さん」  指につけていたスキンを捨てた敦人は、覆いかぶさってきて額にキスをする。しつこく弱点を責めて文哉を追い詰めた男とは、別人かのような優しいキスだ。  しかし、ギラついた瞳はごまかせない。  男のこめかみから流れた汗が頬を伝い、文哉の喉元へ落ちた。 「も、う……挿れ、るか?」 「ちょっとだけ、待ってくださいね。休憩しましょ」  口元に笑みを貼りつける男は、ゆっくりと文哉から離れ、新しいスキンを猛った自身につけている。それからまぶたごと額を押さえ、長い息を吐き出した。 「あー、駄目。待って……」 「どうした……? やっぱ、抱くのはキツイか……? ふ、服、着たら、抱けるか……?」  不安から肘で身体を起こした文哉は、ふー、ふー、と荒い息を繰り返す敦人の唇へ触れた。  湿った感触をなぞると、唾液をまとった舌に捉まる。手首も固定され、ねっとりと指の股まで濡らされると、初っ端にこの動きで肉棒を射精寸前まで可愛がられたことを思い出した。 「ぁ、敦人……っ」 「可愛い反応しないで……抱きたいに決まってるでしょ。けど落ち着いてからじゃないと、酷いことしちゃうんで」 「……どんな?」  チラリと、攻撃的な瞳と視線がぶつかる。本能的に不安を覚え、ビクっと手を引く文哉を見て、敦人は苦笑した。 「俺……実は興奮すると、相手のこと押さえつけたくなるんです」 「押さえ……て?」 「身動きできないようにして、気持ちいいことばっかして……泣いてるとこ見るのが、好きなんです。でも、その、いつも怖がられるから隠してるんですけど、文さんが可愛すぎて、今はヤバいっていうか」 「……それは、誰にでもなんのか?」  敦人が首を振る。 「好きじゃないと、なりません」  射精したばかりなのに、指でじっくりと快楽を覚えさせられたところが疼き、高揚感に支配される。  どんなときも素直で裏表のない男が隠したい素顔――それを暴きたくて興奮するのは、いけないことだろうか。いいや、悪いことじゃないはずだ。  彼は言葉で、態度で、行動で教えてくれている。綺麗な宝箱の中で、一番ふかふかの布に据えられた文哉は宝物なのだと。  その宝物を愛でるのも、身につけるのも、所有者である敦人の好きにすればいいのだ。 「じゃあ……いいじゃん」  夢心地で正気を失っている文哉は、男の手を自身へ誘った。放ったばかりの性器は期待と興奮で、すでにゆるやかに勃ち上がっている。 「見ろよ。お前に好きにされてえって、こんななってる……」 「ちょ、……ちょお~……」  真っ赤な顔の敦人は抗議しているが、触れた性器をやわやわと握り、ぶるりと震えた文哉の腰を抱き寄せた。 「こんなエロいとか、聞いてない……!」 「俺だって知らねえよ。けどお前の仮面の内側は、俺だけが知ってたい……こんな俺は、嫌か?」 「大好きです! ……あとでいっぱい、いーっぱい、甘やかして優しくします、からっ」  押し倒され、両脚を左右へ大きく開かれる。秘所が余すことなくさらされる羞恥はあるものの、今はそんなこと、どうでもよかった。 「敦人、こいよ」 「はい……っ」  腕に文哉の膝裏を引っかけた敦人は、そのままぐっと身体を寄せてくる。苦しいほど押し潰されたまま、解れた後孔には張り詰めた男の先端があてがわれた。 「ん……っ、文さん、ナカあっつ……っ」  ゆっくりと、自分のナカに敦人が入っていくのが見える。信じられないほど柔らかくなった縁が広がり、肉棒を少しずつ飲みこんでいった。 「ぁ、あ、すげ……っ、まだ入っ……」 「いっぱい解したんで、痛くないでしょ……っ? 全部、挿れて、い?」 「んんっ、いい、い、から、ぁあっ」  なじませるように前後するカリが、快楽を知った泣きどころに引っ掛かる。どうにか快楽を逃がしたいが、敦人に身体を固定されていて動けなかった。 「敦人、ぉ……ッ、あ、んぅっ」 「もっと奥、いくから……じっとして?」 「ぇあ、あ、嘘っ」  上半身を起こした敦人は脚を下ろさないまま、文哉の肘をつかんでシーツへ押しつける。  これでは、頭しか満足に動かせない――腹の奥をキュンと痛ませたのは、期待だった。 「くる……ッン、敦人の……!」  指では届かない未開の地まで、丸く張り出した先端が暴いていく。浅い呼吸を繰り返す文哉を見下ろし、敦人は目を細めた。 「文さん、ちょっとMっ気あるの可愛すぎ……こんな奥まで挿れたことないのに、俺のに甘えてきて、超気持ちいい」 「ぁ、あ、怖い……っ」 「だーいじょうぶ。俺のこと見てて」  ぎゅっと、肘をつかむ手に力が入ったのがわかった。  文哉は言われた通り、息を整えながら敦人の顔を見つめる。生理的な涙を瞬きで払えば、雄の表情をした男が幸せそうに囁いた。 「文さん……大好き」  ――ドチュンッ。  肉棒の全てがナカへ収まると、文哉は声もなく目を見開いた。 「ひ……ひン、っ、……ふ、ぅ」 「はぁ……かーわいい。俺の先っちょ、文さんの突き当たりに届いちゃいましたあ……」 「んっ、あ、アっ」  ゆったりと間延びした口調のくせに、始まった律動は容赦ない。抜けそうなほどギリギリまで腰を引いたかと思えば、次の瞬間には敦人のいう「突き当たり」とやらを力強く突き上げる。  脚を閉じることも、腰をくねらせることもできないまま、文哉はただ与えられる快楽に泣いた。 「ぁっ、あつと……っん、そこ……ッ」 「ン、可愛い……文さんのナカ、温かくて、ぐにゃぐにゃしてます、気持ちい」  揺れる視界の中で、敦人が気持ちよさそうに唇をゆがめている。  自分で興奮してくれている。快楽を得てくれている。それが嬉しくて、文哉も知らず知らず口元を綻ばせていた。 「敦人、っん、敦人……っ」 「ん?」 「アッ、ふ、ふぅっ、こっち……っこっち、こい」  キスをねだった文哉へ、敦人は従順に身体を寄せた。  唾液で濡れた唇が重なって、誘われるままに舌を伸ばす。上手なキスの仕方なんてものは知らないが、ただ、とにかく、可能な限り敦人とつながっていたかった。 「んぅっん、んーッ、ふ」 「はぁ……ッそろそろ、ですか? すごい、締まってきた……っ」  叩きつけるように腰をぶつける敦人が、眉間にしわを寄せている。男くさい表情にあおられて、文哉は息をのんだ。  内壁を圧迫する男が根本まで沈められ、小刻みに最奥を突き上げる。文哉が見たことも触れたこともない場所を切っ先で可愛がられているかと思うと、宙で跳ね上がる爪先にぎゅっと力が入った。 「で、出そう……っ敦人、イきそ……!」 「ん、いいですよ、出して文さん」 「前……っまえ触って、頼むっ擦って! 出る、出したい……!」 「大丈夫……さっきみたいに後ろで……っ、俺のだけで、イって」  腰を押しつけたままぐりぐりと動かれ、揺れて腹を打っていた性器の小孔が口を開く。尿道を駆け上がってきた精液が噴き出すと、身体を丸めた文哉の顔や胸元を白濁が汚した。  しかし敦人は、文哉が射精している間も律動をやめようとしない。 「んぃっ!? あ、待って敦人、止ま、……止まって、ぇ、今ッ」 「文さん……ッ文さん、好き、可愛い……っ」 「まっ、あ! やだっいぁ、あ、また……ッ」  熱に浮かされた男の猛攻は終わらない。  頬に飛んだ文哉の欲情を舐めとった敦人は、すっかり理性を失っていた。 「何回でもイって。俺も出す、から……っ」 「ンんんッ」  嬌声というよりは、悲鳴だ。手酷いほど与えられ続ける快感は苦痛に近い。ダラリと喉元へ落ちてくる自身の精は、まだ止まりそうになかった。  このセックスは一体、いつになったら終わるのだろう。  そんな不安がよぎったとき、敦人が文哉の拘束を解いた。そして今度は背へ腕をまわし、抱き起こす。 「文さんっ」 「ひ……ッ」  膝の上へ乗せられ、気づけば深く敦人をくわえこんでいた。背中へまわした腕で肩を引き下げるように抱えられ、膨らんだ敦人の性器が内側で身勝手に跳ねる。 「はぁ、あ……出てる、文さんのも……」  うわ言のようにつぶやいた男の視線は、止めどなく吐精する文哉の中心へ注がれている。  しかしそれを恥ずかしがる余裕も何もなく、文哉は不規則に全身をビクつかせた。最後の最後に限界までハメられた衝撃が強すぎて、長い射精感が中々引いていかない。 「……ッぁ、……う、ン」 「大丈夫、です……?」  汗ばんだ首筋へ顔を埋める敦人が、心配そうに問いかけてくる。  文哉は黒い頭を震える腕で抱きしめ、何度もうなずいた。 「だい、じょ……ぶ、けど……眠い……」  昨夜はまともに寝つけなかったというのに、三回も射精させられれば身体が限界だ。秒毎にまぶたが重くなっていくようで、まばたくことが異様につらい。  脱力するまま男へしなだれかかれば、可愛らしいリップ音と共に肩へキスをされる。 「やだ……待って文さん、寝ないで?」 「ん、でも、もう……俺、無理で……」 「お願い、あと三回……せめてもう一回……」  もう少し元気があれば、「わざとか?」と、庇護欲をそそられるさみしそうな声の男に詰め寄っていただろう。だがとっくに内側で復活している雄が、限界を超えた身体に眠れない理由を与えていた。 「一回だけだな? 絶対、絶対だぞ……?」 「っはい!」  思えば最初から、文哉はこの後輩に弱い。  ガラス細工でも触るかのごとくベッドへ横たえられながら、気怠い腕を動かして男の頬に触れる。そうすると、幸せそうな微笑と口づけが降り注いだ。 「大好き……文さん愛してる。俺だけのお姫様」  これはもう白い旗の代わりに、はがした仮面でも振りたくるしかあるまい。 END
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