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第一部の壱『スッポン雑炊』
ここは、名古屋の錦町と呼ばれる夜の街。
東京の歌舞伎町とはまた違った趣があるが、広小路町特有の、碁盤の目のようなきっちりした敷地内には大小様々な店がひしめき合っている。
そんな、広小路の中に。通り過ぎて目にも止まりにくいビルの端の端。
小料理屋『楽庵』と呼ばれる小さな店が存在しているのだった。
湖沼美兎は疲れきっていた。
名古屋でも、かなり大手の広告代理店に入社出来て、早数ヶ月。
夢ではあったけれど、現実は夢のようにはいかない。だから、多忙な雑務処理に追われてしまっても、やりたいことにいずれ繋がると信じて、美兎なりに取り組んではいた。
だけど、現実はいつまでも雑務ばかり。
いつになったら、自分のやりたい広告デザインなどの仕事が出来るのか。まだ研修中ではあるのに、思わずにはいれない。
なので、今日は錦町に来て、飲みなれない酒を飲んで気分を変えようとしたのだが。
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