第一部の壱『スッポン雑炊』

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「お……え。気持ち悪!」  今は、吐きそうな一歩手前で錦町の界隈を歩いていたのだった。 「……慣れない日本酒飲みまくるんじゃ……なかった」  味は悪くないのだが、喉で焼けるように感じるアルコールの症状が苦手だ。  けれど今日みたいに、仕事に嫌気がさしてしまった時は飲みたい気分だった。だが、酒に不慣れな美兎の場合、吐く手前まで飲んだことについては失敗した。  ビルの壁伝いになんとか歩いてはいるが、誰も声をかけてくれないほど酷い状態であることは理解出来た。  でも、少しでも、誰かの温かさに寄り添いたくなってしまう。辛い時こそ、誰かに。  すると、肩を誰かに叩かれたのだった。 「……お姉さん、顔色が悪いようですが。大丈夫ですか?」  ゆっくり振り返ると、美兎の後ろにいたのは一人の男性。ホストでもなんでもなく、割烹着を着た料理人のような男性。  顔はイケメンというよりかは、見ていてほっとするような柔和な感じ。けれど今は、体調の悪い美兎を本当に心配してくれているのか、困ったような表情でいた。
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