第一部の壱『スッポン雑炊』

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「……あ。いえ……う!」 「大丈夫ですか? 吐くようでしたら、うちの店のトイレ使ってください」 「……す、すみま……せん」  ここは遠慮せずに、彼の言葉に甘えることにした。  店は、偶然にも美兎が寄りかかりそうになってたビルの中にあり。狭いが、トイレで遠慮なく胃の中身を吐き出してから、彼に改めてお礼を言うことにした。 「……助かりました。あの、湖沼と言います」 「よかったです。見たところ、お酒があまり強い感じではないようだったので」 「いや、ほんとにもう。お兄さんには感謝してます!」 「大したことはしてませんよ? よかったら、胃に優しい料理を作ったので、召し上がりませんか?」 「いいんですか?」  実は吐いた原因のひとつに、空きっ腹で飲みすぎたせいもあったのだ。大学時代に仲の良かった先輩からは、つまみでもいいから食べながら飲むように言われていたのに、すっかり忘れていた。  なので、カウンターに座らせてもらい、その料理をいただくことにした。 「はい、お待たせ致しました」  カウンター越しに出された料理は、質の良さげな陶器に盛られた卵の雑炊(おじや)。  ただ、ネギ以外にも何か薄ネズミ色の欠片が混ぜ込まれていた。  だが、それが気にならないくらい、出汁の良い香りと卵の火の入れ方。普段のランチでも早々お目にかからないくらいの、ふわとろ加減に見えた。
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