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「……あ。いえ……う!」
「大丈夫ですか? 吐くようでしたら、うちの店のトイレ使ってください」
「……す、すみま……せん」
ここは遠慮せずに、彼の言葉に甘えることにした。
店は、偶然にも美兎が寄りかかりそうになってたビルの中にあり。狭いが、トイレで遠慮なく胃の中身を吐き出してから、彼に改めてお礼を言うことにした。
「……助かりました。あの、湖沼と言います」
「よかったです。見たところ、お酒があまり強い感じではないようだったので」
「いや、ほんとにもう。お兄さんには感謝してます!」
「大したことはしてませんよ? よかったら、胃に優しい料理を作ったので、召し上がりませんか?」
「いいんですか?」
実は吐いた原因のひとつに、空きっ腹で飲みすぎたせいもあったのだ。大学時代に仲の良かった先輩からは、つまみでもいいから食べながら飲むように言われていたのに、すっかり忘れていた。
なので、カウンターに座らせてもらい、その料理をいただくことにした。
「はい、お待たせ致しました」
カウンター越しに出された料理は、質の良さげな陶器に盛られた卵の雑炊。
ただ、ネギ以外にも何か薄ネズミ色の欠片が混ぜ込まれていた。
だが、それが気にならないくらい、出汁の良い香りと卵の火の入れ方。普段のランチでも早々お目にかからないくらいの、ふわとろ加減に見えた。
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