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いつか、とは思っている。
そのいつか、が五年十年先だとしても。妖の生き方を思えば、本当に砂粒程度の時間だ。美兎も受け入れてくれるかは、わからないが。あの短い期間、悩んでくれたのだ。いい方向であって欲しい。
「精が出ていますね? 大将さん?」
「……おや」
掃き掃除に夢中になっていると、客足の音に気づかなかった。
顔を上げれば、目の前にいたのは雨女の灯里。その後ろには、息子である晴れ男の灯矢が恥ずかしそうに、モジモジしていた。
空が晴れなのは、灯矢がいるせいだろう。まだまだ幼いのに、妖力が確実に育んでいるのかもしれない。
「……こ、こんにちは」
「はい、こんにちは。お久しぶりですね?」
「ええ、去年以来。色々立て込んでたもので」
それと、と灯里は灯矢の頭を撫でてやった。
「お、おかあさん……」
「灯矢? お母さんは連れてきたのだから、大将さんにきちんと伝えなくては」
「……僕に御用が?」
なんだろう、と。掃除道具を店に立てかけて、灯矢の前に屈んでみた。
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