第三十五部の壱 再会、雨女と晴れ男

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 あの時は、感情の起伏がそこまでなかったが。今は年相応に恥ずかしがったりと、表情を変えていた。  にっこりと笑ってやれば、灯矢は恥ずかしがりながらも笑顔になってくれた。 「あ、あの……お兄さん、の」 「はい」 「ご飯……また…………食べたく、て。連れて来てもらいました」 「おや、そうなんですか? ありがとうございます」 「すみませんね? この子が、いい子に出来たご褒美に何がいいか聞いたら。大将さんのご飯がいいって」 「構いませんよ? 仕入れは終わったので、仕込みも落ち着いていますし」  昼過ぎだったのが幸いだった。  今日は気分的に朝イチで響也(きょうや)となって、柳橋に行って仕入れをしてきたお陰で。昼過ぎには、仕込みが完了していた。  ランチ営業は、ひとりで切り盛りしているせいでなかなか出来ないでいるが。今日くらいはいいだろうか。貸し切りにさせるのも悪くない。  了承すれば、灯矢が火坑に両手を差し出してきた。 「心……のかけら」  一度きりなのに、覚えていたのだろう。
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