第三十五部の弐 心の欠片『和風オムライス』

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「ケチャップの匂い……しない?」  ちょっとだけ残念がっているようだが、火坑は小さく笑った。  次に卵。  灯矢から取り出した、有精卵のように赤い卵。これを贅沢に三つも使い、バターと塩胡椒でスクランブルエッグのように焼いていく。  それを包むように、ご飯の上に乗せたら。仕上げに、灯矢念願のケチャップをかけていく。  途端、灯矢から『わあ』の声が上がった。 「お待たせ致しました。特製和風オムライスです」 「わふう?」 「醤油とか、みりんを使ったので。普通のオムライスとは違うんですよ?」  灯矢にはまだ持つのが重そうなので、カウンターに置いてやった。木製のスプーンを渡してやると、彼の白目が黒く、水色のような瞳が楽しそうに輝き出した。  子供の客は少なくないが、たまに訪れる彼らと同じ表情になるのは嬉しかった。  もう一度、さあどうぞ、と告げれば。灯矢はいただきますをしてから、スプーンでオムライスをすくった。 「わあ!」  また声を上げてから、勢いよく口に入れると。はふはふしながら、ゆっくりと噛んでいく。 「こらこら、ゆっくり食べなさい」
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