第1話 まるでアナタは白馬に乗った王子のように

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第1話 まるでアナタは白馬に乗った王子のように

『遠く離れても俺は愛しい君を想っている。例え、この身が滅びてとしても俺は生まれ変わって君を迎えにいくだろう』  俺はそこまで言って青空の下、街道に立ち塞がっているゴブリンの大群を睨みつける。  身体の内側で魔力が練り上げられ、右手から真っ赤な炎が激しく噴き出す。 『――だから見てくれ! 燃え上がる愛の炎を! 俺がこの手で立ちはだかる者全てを焼き尽くす!』  俺は右手から生み出した炎をゴブリンたちに向けて放つ。  その炎はゴブリンを一匹残らず焼き払い、しばらくして炎が鎮まった跡には炭となったゴブリンが地面に積みあがっていた。 「大丈夫だったか?」  俺は背後にいた少女に声を掛ける。 「は、はい……ありがとうございました」  少女は呆然とした様子だったが、我に返って俺に礼を言う。 「それにしても、凄い威力の魔法ですね。詠唱もなんだか独特でした」  少女が俺の魔法を見た感想を言葉にした。 「俺は告白魔法というものを使っているんだ」 「告白魔法?」  少女が聞きなれない言葉に怪訝な表情で聞き返す。 「人の想いの強さを力に変える魔法さ。籠める想いはどんなものでもいい。愛情でも憎しみでも詠唱に真心が表れていれば高い効果を発揮する」 「ということは今の詠唱は……」 「……あ、ああ。遠い場所にいる想い人への気持ちを表現していた」  俺は自分で言っておきながら気恥ずかしくなって頭を掻く。  この魔法は絶大な力を引き出すが、毎回毎回、人前で詠唱をする度に何か大切なものを失ったような気分になる。 「……ロマンチックですね」  だが、少女は幸いにも俺の詠唱を聞いても好意的な反応を示してくれた。  彼女は魔法都市アンコールから続いているこの街道を通って実家のある村に帰るところだったらしい。  けれども途中で彼女の荷物を狙って現れたゴブリンの大群に襲われ、偶然そこに居合わせた俺が彼女を助けたのである。 「あの……これ、ほんのお礼と言ってはなんですが……」  少女が上着のポケットからペンダントのようなものを取り出して俺に手渡した。 「それは渡した相手との愛情を深めると言われているお守りです。アンコール女子の間で今流行りのアイテムですよ」 「へえ、ありがとう。……ん? 渡した相手との愛情を深める?」 「ち、違いますよ! 決してあなたとそういう関係になりたいとかではないですから! 私、彼氏いますし!」 「そ、そうか……」  俺は一瞬だけドキッとしたが、少女に慌てて否定された。  なんだか、それはそれで少しショックだ。 「このお守りは元々私が故郷の彼へのお土産として買っていたものですけど、あなたに差し上げます。彼女さんに会えたら渡してあげてください」 「えっ……ああ、そうだな」  俺はなんとも言えない気持ちになったが、少女はそんな俺の様子に気づかず手を振って立ち去っていく。 「ようやく行ったわね。これで姿を現せるわ」  俺の視界かあら少女が見えなくなると同時にそのような声が聞こえてくる。  気づくと、俺の隣に天使のような翼が背中から生えた幼い女の子が出現していた。  彼女はラビィという名前で、俺と共に魔法都市アンコールを目指して旅をしていた。 「ラビィ、さっきから姿が見えないと思っていたが、お前は一体どこにいたんだ」 「どこにいたかって、ずっとアンタの傍にいたわよ。身体を透明化して隠れていたの」  ラビィは外見年齢で言えばおよそ10歳前後の子供だが、言動は17歳の俺とほとんど変わらない。 「キューピットって奴は便利なことが出来るんだな」 「ちょっと、言葉には気をつけなさい。私はこの世界の人間にキューピットだと知られて訳にはいかないのよ」  ラビィが顔をしかめて俺に注意してくる。  ラビィは自称キューピットで、愛の神様の遣いらしい。 「アンタも自分の身分を説明する時は喋り過ぎないようにすることね。アンタが異世界から転生した人間だと知られたら、どんなトラブルが起こるか分からないのよ?」 「そうだな。俺をこの世界に連れて来たお前が言うなら従うさ。俺もこの世界のことを深くは知らないからな」  俺は日本からやって来た異世界転生者の神矢綴(かみやつづり)。  そして、こちらの世界での名前はツヅリ・ランダース。  三日前、この自称キューピットの来訪と共に前世の記憶を思い出した俺は周囲に流されるまま、こうして旅をすることになった。  こっちの世界での俺を育ててくれた両親曰く、俺は神様からの天啓で伝えられた「予言の大魔法使い」だという話だった。 『汝らの子はやがて世界を変革する大魔法使いになるだろう。一対の白い翼を持つ余の遣いが汝らを訪ねた時、子を魔法都市アンコールへと送り出しなさい』  天啓の内容は大体こんな感じだったようだ。  あまりにも荒唐無稽な天啓だったため、前世の記憶を思い出す前の俺は半信半疑だったが、実際に自称キューピットが俺の家を訪ねて来たことにより、予言は本物となり、平凡な農家の一人息子だった俺は生まれて初めて村を出た。  俺は地平線まで広がっている草原の景色を眺めて天啓の続きを思い出す。 『汝らの子は魔法都市アンコールで運命の女性と出会うだろう。その女性は神に選ばれたもう一人の大魔法使いである』  運命の女性というフレーズが脳裏をよぎって俺の心臓は思わず高鳴る。 「いかんいかん、俺にはもう心に決めた人がいるんだ。その人と再会するためにも早く元の世界へ戻らなければ」  俺はぶんぶんと首を振って気を引き締める。  そんな時、俺の視界の端に俺と同年代の見知らぬ少女の姿が映った。  少女は街道脇に植えられている木の陰から俺たちの様子をじっと見ていたが、俺の視線に気づくとすぐに隠れてしまう。 「あの子……どこかで見たような……」 「何やってるのよツヅリ、さっさと行くわよ。ここに長居していたら今日は野宿になっちゃうわ」 「あ、ああ、すぐに行く」  俺は少女に声を掛けようか迷ったが、ラビィに急かされていることもあり、少女に背を向けて歩き出した。
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