第18話 まるでアナタは恋に恋する乙女のように―1

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第18話 まるでアナタは恋に恋する乙女のように―1

「ツヅリ! 届いたわよ! 試験の合否通知!」  翌日、ラビィが一枚の封筒を持って猫屋敷のエントランスにやってきた。 「ふーん」 「さあさあ! 早速開いて結果を確認するわよ!」 「そうだな」 「見て! 合格だって! これで二次試験に行けるわね!」 「それは良かった」 「…………」  ラビィが急に黙ったので、何事かと思い、彼女の方を見ると、ラビィは不機嫌そうに頬を膨らませていた。 「どうしたんだよ」 「こっちの台詞よ! なんで自分の試験結果なのにぼーっとしちゃってるのよ! 嬉しくないの!?」 「いや、嬉しいよ。当たり前じゃん」 「だったら、喜びなさいよ! なんでアンタより私の方が盛り上がってる訳!?」 「お前、面倒くさい女だな」  俺は長いため息を吐く。 「……ルミナ、遅いわね。いい加減お腹が空いたわ」 「俺たち、着実にライフラインをルミナに握られているよな」  ルミナは女将さんと食材の買い出しに行ったが、15時を過ぎても帰ってきていなかった。 「別に私としては帰ってこなくても構わないんだけど」 「お前は冷たいな」 「逆にアンタは平気なの? 相手は何をしでかすか分からないヤンデレなのよ?」 「怖いに決まってるだろ。昨日も監禁された上、半殺しにされそうになったんだぞ」 「前々から気になっていたんだけど、アンタってルミナのことをどう思ってるの?」 「やべーやつだと思ってる」 「そういう意味じゃなくて、異性としての好きか嫌いかってこと」 「お前の脳みそは砂糖で出来てるのかよ」 「恋愛脳で悪かったわね。けれど、私は愛のキューピットなのよ? 恋愛相談なら私に任せなさい。 ……何よ、そのいかにも信じてなさそうな顔は」  正直、俺はまだ、ラビィがキューピットだということすら疑わしく思っていた。  今日に至るまで、コイツが神の遣いっぽいことをしている場面は見たことがなかったからである。 「俺がルミナを好きだと思っているとかそんなアホな話があるか。ただ、アイツとは一応浅からぬ関係だから気にかけてるだけだ」 「前世では先輩後輩の関係だったっけ?」 「ああ、初めて出会った時のアイツは小学六年生で、一年後に俺と同じ中学に入ってきた。それから、中学高校を通して、四年以上は付き合いがあったな」 「前世のルミナはどんな子だったの?」 「普通の子だよ。……いや、普通と言うのはちょっと違うかな? ルミナはいつも一人でいることが多くて、部活にも入っていなかった」 「要するに根暗のぼっちなのね」 「お前って奴は本当に……」  間違ってはいないのだが、コイツはもう少しオブラートに包んでものを言うことを覚えた方がいいと思う。 「すみませーん! 誰かいますかー!?」  俺がラビィに呆れていると、猫屋敷の玄関扉の向こうから若い女性の声がした。 「あら? 誰かしら?」 「見に行ってくる」  俺は玄関に行き、木製の扉をそっと開けた。  扉の隙間から覗いた先には、俺と同い年くらいの女の子が一人立っていた。 「あっ、初めまして! アタシ、フィラ・カートレットって言います!」  フィラと名乗る女の子は人懐っこい笑顔を浮かべながら、俺に対してそんなことを言う。  彼女の特徴を一言で表現するなら、「ギャル」だろう。  長い茶髪を左側でサイドテールにして、キャミソールとホットパンツというやたらと露出度が高い格好をした見事な白ギャルがそこにはいた。  前世の世界に存在していた白ギャルたちと異なる点があるとすれば、腰のベルトに帯剣をしていることくらいだ。 「悪いけど、ウチはそういうお店じゃないんだ。未成年は帰ってくれ」  猫屋敷は少し前まで18禁ホテルだったのだから、このフィラという子は勘違いして来てしまったのかもしれない。  俺は扉を閉めようとする。 「待って待って! アタシそういうのじゃないから!」  フィラが扉の隙間に足のつま先を挟み込ませて訴えかけてくる。 「じゃあ、どういうことなんだよ」 「ん〜、どういうことかと訊かれたら答えるのは難しいな。多分、人探し?」 「なんだよ、その曖昧な回答……」 「アタシ、ルミナ・メルトリシアって女の子を探しているんだよね」 「……ルミナの知り合い?」  俺がルミナの名前に反応すると、女の子はこくこくと頷く。 「そうだったのか。まあ、それなら入ってくれ」  俺はフィラを猫屋敷のエントランスに招き入れる。 「ソファに座って待っていてくれ。お茶をすぐにいれてくるから」 「お茶とか要らないよ。ところで、君はもしかして、ここのオーナー? 随分と若くない?」 「いや、俺はオーナーじゃないよ。けど、なんて言ったらいいのかな……居候とか? とにかく、俺たち二人はルミナが買い取ったこの宿に住まわせてもらっているんだ」 「…………もしかして、君はカミヤ・ツヅリって名前だったりする?」 「あ、ああ……俺がツヅリで、こっちがラビィ。それにしてもどうして俺の名前を――」  俺が名乗ると、さっきまでにこやかだったフィラの表情が途端に険しくなる。 「へえ! ということはつまり、君がルミナを連れ去った誘拐犯だな! ルミナを解放しなさい!」  突然、豹変したフィラが腰の鞘から剣を引き抜き、俺は喉に白銀の刃を突きつけられた。
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