第21話 まるでアナタは恋に恋する乙女のように―4

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第21話 まるでアナタは恋に恋する乙女のように―4

 左手に紫の炎を灯したシンクは唇を噛み締めていた。 「……驚いたな。お前が告白魔法使いだなんてちっとも気づかなかった。だが、どうしてお前は今までそれを隠していたんだ? 試験の時も、告白魔法さえあれば自力で突破出来たはずだろう?」  俺は不可解だと思ったことをシンクに問いかける。  シンクの表情には迷いがあったが、決心をしたように深く息をして口を開いた。 「私が告白魔法を使わなかった理由……それは、私がこの魔法を使うことで皆に嫌われたくなかったから……だよ」  告白魔法が嫌われている、というのはどういう意味なのだろうか? 「告白魔法を使う時の詠唱は私の本音だから、私が『嫌い』という感情で告白魔法を発動したら、それが本音だと確定してしまうんだよね」 「あっ……」  俺が内心で抱いた疑問にシンクは答え、彼女が告白魔法を使わない理由を察した。 「私は幼い頃からこの魔法を使えたけど、そのせいで私を不気味に思った両親からは捨てられ、孤児院でも友達は出来なかった。だから、告白魔法は誰にも見せないようにしようと自分に誓ってこれまで生きてきたんだよ」 「そうだったのか……」  俺はシンクに掛ける言葉を悩む。  彼女は今まで自らのアイデンティティをずっと封じてきた。  それはとても辛いことだと思う。 「言いたいことも言えなくて、周囲に流されるばかりで……そんな自分が嫌になって、アンコール魔法学院の編入試験を受けることにしたんだ」  恐怖の炎が段々と弱まっていく。 「なんで俺にその話を聞かせたんだ?」 「ツヅリ君が私と同じ告白魔法使いだったから……という理由もあるけど、自分でもよく分からないかな? ……ただ、ツヅリ君はもしかしたら、私を嫌いにならないでくれる人かもしれないと思ったんだよ」 「俺がそれくらいでお前を嫌いなるかよ。いいじゃないか、告白魔法使い。恐怖の炎が俺専用の魔法とかじゃないと判明した時はちょっと凹んだが、別にそれはお前を嫌いになる原因にはならない」  俺がそう言った瞬間、シンクの左手に灯っていた恐怖の炎は完全に消え去った。 「……ありがとう。そう言ってもらえて私は嬉しいよ」  シンクの両目からは涙が少し溢れていた。 「泣くなよ。俺とお前は友達なんだから、隠しごとはなしにしようぜ」 「ツヅリ君は本当に優しい人だね」 「そうでもないだろ。まあ、お前も初めて会った時に比べたら話しやすくなってきたし、それだけ心を開いてくれているのは素直に嬉しい」  シンクは決壊したように涙を流し始めて、俺はしばらくの間、彼女が泣き止むまで傍にいた。           @ @ @ 「もう……大丈夫」  涙を枯らしたシンクが微笑みながら言う。 「ツヅリ君、今日はこんなところに呼び出してしまってごめんなさい」 「気にするなよ。また何かあったら相談しろよな」 「うん。ありがとう。……今度の二次試験、お互い頑張ろうね!」 「ああ!」  俺とシンクはにこやかな表情で手を振って別れる。  シンクに背を向けて俺は孤児院前の角を曲がる。。 「随分と楽しそうにしていましたね、先輩」  ――だが、曲がり角の先にはいつの間にかルミナが立っていた。 「ひえっ! ルミナ!? どうしてここに!?」 「先輩がこっそり宿から出ていくものですから、ついてきてみたのです。……浮気、していましたね?」  ルミナの両目に影が差す。 「浮気じゃないからな!?」 「本当ですかぁ?」 「本当だよ! というか、俺とお前は付き合ってないから浮気もクソもないけどな!」 「……取り敢えず、先輩は明日からしばらく外出禁止です。破ったらご飯抜きですよ」 「無茶苦茶だな! それを監禁って言うんだぞ!」 「ご安心を。外出出来ない間は、私がきちんと先輩のお世話をしてあげますからね」 「じゃあ、夜の世話もしてもらおうか」 「――ッ!!!!」  ルミナは突然俺の口から放たれた下ネタに身体を震わせて驚く。 「そ、そ、そ、それは……」  ルミナの目は完全に泳いでおり、動揺していることがはっきりとわかる。  やはり、ルミナは押しに弱いというか、初心なところがある。  そんなところがあるから、俺はたまにルミナが可愛いと思ってしまう。 「と、とにかく、私に無断で外出することは禁止です! 破ったら去勢ですからね!」 「いや怖えよ! さっきは食事抜きだったじゃないか!」  チョロいのか怖いのかわからないルミナという少女に俺は今日も面食らっているのだった。
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