その時が来るまで

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 だが俺も手を引く訳には行かない。ここまで親父を追い詰めたのは初めてなんだ。やっと親父に勝つ時が来るのだ!俺は再び押し返した。  小さな頃何度挑んでも全く勝てなかった相手をやっと超えられる。 俺はかつてない興奮を味わった。  そうだ、息子は父を超えて行くのだ。だがふと思った。 父を超えるって何だ…。  このくそ忙しい時に俺の脳裏に様々な親父の姿が巡った。  遊んでくれた親父、働く親父、色々買い与えてくれた親父、俺のせいで近所に頭を下げて回った親父、面倒な手続きをする親父、反抗期で色々抱えていた俺をさりげなく気にかけていた親父、俺みたいな出来の悪いガキを大人にまで育てた親父。 「もうちょっとよ!頑張れ!お父さんをやっつけろ!」  お袋がジャッジとしては完全にアウトな事を言い出す。  俺は体重を乗せて親父の手を何とかテーブルに付けようとした。だが親父震える腕を付けようとはしなかった。  親父はすげぇ…。本当にすげぇ…。 俺はそう思った。  親父の腕がゆっくり巻き返して行く。俺はそれに押されるままに腕を立てて行き、そしてゆっくりじっくり押し倒され、テーブルに甲を付けた。  肩で息をする親父の視線はもうろうとしていた。 「やるな…。」  絶え絶えな息の間から親父はそう漏らした。 「まだかなわねぇな。親父には。」  俺はそう答えて手首をさするしかなかった。  
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