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しばらくして台所の裏口扉が開いた。
「イチ、大丈夫かな? 凍えてない?」
「毛布必要?」
心配する兄弟たちの声の次に公子の声がした。
「大丈夫だから。あなた達は自分の事をしなさい」
公子はそう言うと一郎のもとへやって来た。幹久が毛布を、奈美枝が牛乳瓶を温めて、一郎の小さなマグカップに注いで公子に渡していた。
公子は毛布で優しく一郎を抱き上げて「可哀想に。ごめんね、何もしてやれなくて」と少し涙声で囁くと赤子をあやすように一郎の体を揺らし、空に目を向けた。
「ほら、星空だよ。綺麗だねぇ。イチ、見えるかい?」
この日は雲一つなく、星がよく見えた。
泣き明かして赤くなった一郎の瞳にも流星群がくっきりと広がって見えた。
「一番星を探そう。あれかな?」
公子は鼻歌を交えつつ、一郎に星空を見せ続けた。
輝く星々は一粒一粒が光を交互に強く放ち、お互いが会話をしているように仲良く並び、放たれるその光は放射線状に線を引いていた。
一郎には伸び縮みしてみせるその輝きが、まるで星が両手を広げてこちらを手招きしているかのように見えた。
「お星さまが、こっちおいでって言ってる」
一郎が指をさして言うと、公子はどこか寂しげな表情を浮かべ「あの星に、2人で行ってみたいねぇ」と、遠くの星々を眺めて呟いた。
そのうち一郎は、母親の温もりの中、安心感からゆっくりと瞼を落としていった。
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