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気が滅入るばかりのボロアパートに嫌気が差して、部屋を出た。緊急事態宣言がようやく解除されたと言っても、行く宛もない。路地を選んで適当に歩く。
静かな住宅街は、案外古い家が多いようだ。しかし、家ばかり見ても仕方ない。
引き返そうかと歩を緩めたところで、小さな貼り紙が目に留まった。
『おすすめ占い〼』
民家だと思っていたが、書店のようだ。少しでも暇が潰れればと、中に入った。
(でも、教科書を買ったばかりだしな)
教授が書いた馬鹿高い専門書を何冊も買わされたばかりだ。ついでに言うと、長らく外出禁止だった上、授業もどうなるかわからなかったから、バイトもまだ決まってなくて、財布に余裕は無い。
(帰るか)
テレビもない部屋でネットにも飽きていたところで、暇つぶしに1冊欲しいは欲しいが、我慢しよう。目ぼしい物もない。
未練がましく店内をうろうろしていると、カウンターに寄っていった初老の男性客が店員に声を掛けた。
「はい」
ひどく可愛らしい返事に誘われ、思わず振り返る。客は、あろうことか女性店員の手を握っていた。
(堂々とセクハラかよ!)
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