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「久しぶり、お父さん」
私は父の前に座った。向かい会う父の硬く結ばれた口が開くことはない。
「…あのね、今日は彼を紹介しようと思って連れてきたの」
隣に座っていた彼は、背筋を伸ばしなおした。
「は、初めまして! マユミさんとお付き合いをさせて頂いているゲンヤと言います! えと、今日は、その…」
必要以上に緊張している彼の姿が面白くて、ふふっと笑ってしまう。彼に向けていた視線を父に戻し、彼の言葉の続きを告げる。
「私たち、結婚しようと思うの。今日はその挨拶」
父は表情一つ変えない。私たちの後ろで、母が鼻をすすっている。
「遅くなっちゃってごめんね。本当はもう少し早く報告しようと思ってたんだけど……ごめんね」
私は視線を下へと落とした。涙で視界が歪む中、彼がそっと私の手を握った。
「マユミさんは、僕が幸せにします! どうか見守っていてください!」
彼は父から目を逸らすことなく、そう言った。後ろから母に鼻声で「バカねぇ」と言われ、私たちは母の方を向いた。父の方が年上のはずなのに、今では母の方が老けてしまった。
「2人で幸せにならないと意味ないじゃない。……きっと、父さんもそう言うわ」
私たちは父に向き直ると、手を合わせた。
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