顧客File4.五十嵐美穂(30) 夫家族からの現実逃避

74/74
57人が本棚に入れています
本棚に追加
/287ページ
「……ところで、天津さん、北海道に行く前に聞いても良いかしら」 「おや、なんでしょうか?」 「天津さんの事なんだけれども」 「なんなりと」  また、あの糸目の笑顔で天津が微笑む。どう聞いても望む答えが帰ってくるような気はしなかったが、美穂は小さく息を飲んで口を開いた。 「貴方は、一体何者なの?」 「……ほう」 「前に契約した時は、突然の出来事が沢山あって、  立ち止まって考えられなかったけれど……  寮の管理人代理になった事といい、次彦さんを失った事といい、  ただの偶然とは考えられないわ。  貴方が直接、危害を加えたと言いたいわけじゃないの。  これまでに起こった出来事は、そんな話で説明できるものでもないと思う。  ……だから、もう一度聞くわ。貴方は、何者なの……?」 「私は……」  天津が、パチンと扇子を畳む。  それをそっと掲げながら、彼は小さく首を傾げた。
/287ページ

最初のコメントを投稿しよう!