母親

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……事は、勝手に進むものなのね? 思えば、夫の時もそうだった。 「階段を踏み外した」わたし達の言葉を鵜呑みにして、警察の捜査は呆気なく終わり。 今回も、そう。トウマの検死も、葬儀の手続きも、全て。まるで簡単な事務作業のように、淡々と進んでゆく。わたしの大事な一人息子は、もう二度と、目を覚ますことは無いのに……。 「では、息子さんの写真をご用意ください」 「写真、ですか……?」 葬儀業者の一言に、わたしはたじろぐ。だって、写真なんて。 ……無いもの。 「……あの、実は。もう、ずいぶん前に、撮ったきりで……」 わたしの歯切れの悪い答えに困る様子もなく、業者は答えた。 「古いもので構いませんよ。今は、加工も簡単に出来ますので」 「……そうですか」 ああ、もう、そんな時代なのね。わたしの時間は、あの子と同じ。夫を亡くした日から、止まってしまった。
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