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母の願い事
昨夜の出来事が、頭をよぎる。
「お星様、僕の願いを……!」
あの子の叫びを忘れる事なんて、わたしには出来ない。だって昨日、あの子は。20年振りに、家の外へ出てくれたんだもの。
嬉しかった。やっと、前を向いてくれたんだと思った。
トウマはきっと、子供の頃の約束を覚えていてくれたのね。一緒に流星群を見ようって。その時に、お願い事を叶えてもらおうねって、トウマと約束したもの。
「きっと、お母さんの幸せを祈ってくれたのね? トウマは、優しい子だもの。だけど、無理しなくて良かったのよ……?」
古いアルバムを抱きしめて呟く。きっとこれが、あの子の願い事だったんだわ。
あの子だって、もう子供じゃない。全部、わかっていたはず。自分が、生命保険に加入している事。大黒柱を亡くしてから、ずっと。生活が苦しかった事も、全部、知っていたもの。
だけど、ね?
「トウマ……。あなたが何も話さず、生きてさえいてくれれば。わたしは、それだけで、幸せだったのよ?」
だってお星様にお願いなんてしなくても、トウマは誰にも話したりしないでしょう。わたしが、夫を殺した事なんて。
わたしの願い事は、ひとつだけ。
愛する息子の願いが叶うこと。ただ、それだけだったのに……。
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