03.

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03.

 デート当日の待ち合わせは就活の最終面接くらいには緊張する。  なんせ二か月ちょっとの総決算がここにあるのだ。  総決算といっても在庫一斉バーゲンセールというわけではない……と信じたい。  ハチ公ではないが有名な駅の有名な銅像の前でイケメンを待つ。  日曜日の昼前という時間帯はやはりほかにも待ち合わせしている人で溢れていて、そのなかで私は夏らしく白を基調としたワンピースを着ている。  イケメンの名前は勇也(ゆうや)。  お互い見つけたら声をかけることになっている。  そのせいでさっきから私は無駄にキョロキョロしてしまっていた。ちょっとした不審者である。  それにしても。と、手で庇をつくり太陽を睨む。  ――それにしても、暑い。  容赦なく日差しが照り付ける。日焼け対策も抜かりないが多少は焼けてしまいそうなそんな予感。  化粧も汗で落ちないか心配だ。  待ち合わせ十分前。まだイケメン勇也氏は来ない。  こういうとき男性がはやく来るものではと思わないでもないが、まだ時間前だ。怒る必要はまったくない。  ストレスは美容の敵。美容の敵は私の敵。はっ。ということは敵の敵は味方だから、ストレスと私は仲間?  と毒にも薬にもならないことを考えていたそのとき。  背中のほうから声がした。 「あの、すみません」  キタ。  焦らずゆっくりと振り返る。  イケメンとのファーストタイムである……はずだったのだが。 「……………………は?」  見たことのないおっさんがそこにいた。  年齢的に一回りは上であるという風貌で、ハゲかかっているしお腹は妊娠九か月目くらいだし油にまみれていた。顔面が。  ていうか、あんただれ。  ナンパか? 「あの……えっと、お待たせしました」  いまのナンパは凝っているな。  お前なんか待ってねーよ! と言ってやりたいが私も余裕たっぷり大人女子である。 「あの、私、待ち合わせしているので」 「え? 楓さんじゃないんですか?」  ほほう。個人情報まで調べてくる徹底っぷり。  ……ってあれ。もしかして? 嫌な予感。 「たしかに私は楓ですけど……」 「ぼく、勇也ですよ。わからないですか」  勇也……。ゆうや。私が待っていたイケメン。  は? このおっさんが、勇也?  私の脳みそはオーバーヒート寸前である。 「あのアプリの……勇也さんですか」 「そうです。ははっ。わからなかった? 加工しすぎちゃったかな?」  お前も加工かよ!  一ミリも似てねーよ。  全部のピースがハマらないジグソーパズルかよ。  ばらばらだよ。そのハゲ散らかった髪の毛とかもな! 「…………………………」 「え? あれ? 楓さん? どうしました?」  はあ最悪だ。こんなおっさんと日曜日にデート。  このまま帰ることもできる……が。  チビでハゲでデブのおっさんが私を見ている。  仲間にしますか?  全力でノー! と言いたいが人を容姿で判断するのはよくない。  と言っても加工したこのおっさんが悪いのだが、私も人のことは言えないのでうんぬんかんぬん。  すぐに帰るのは失礼だし心が痛む。  ……まあ落としどころとして。  おいしい御飯でもたんまり奢らせてから帰ることにするか。  よし。 「はあ、じゃあご飯でも行きましょうか……。私、お腹空きました。どこでもいいですか?」 「それなら予約してあるんですよ」  お、このおっさんでもデートプランは考えてきたってことか。  感心感心。 「へえ、どの辺ですか」 「三駅先です。行きましょうか」おっさんは駅に背を向けて歩き出す。 「車ですか?」 「いえ、歩きです。三駅くらい歩かないと」 「…………はい。行きましょうか」  だから化粧崩れるって。暑いんだよこっちは。  お前を見ていると余計な!  と思いつつ表面ではここでもブちぎれないのがニキビとの戦いで鍛えられた忍耐力を持つ大人女子たる私のヒューマンスキルである。  ちなみに結局ランチは割り勘で、話もそこそこに私は自宅に帰った。  イケメンに『キレイですね』って言われる予定だったのに……。  あのおっさんついぞ私を誉めなかったぞ。せめて言えよなぁ! キレイですねって。  はあ……この二か月間なにやっていたんだろうなあ、私は。  ベッドにぼふっとダイブしてスマホを引き寄せる。  健太郎に結果を伝えようかと逡巡したが結局その案は採決しなかった。 「絶対笑うに決まっているしな……あいつ」  大の字になって天井の蛍光灯を見上げた。  あー……。ほんとにもう。  因果応報。  よいこのみんな。過度の加工はダメ、絶対。
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