養子先

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養子先

佳名の子供の名前は花ちゃんだ。友達も可愛がってくれたけれど、保育士さんも別れるときには涙ぐんでいた。生後半年なので、うまくすれば馴染めて、養子先で親子としてうまく行くのだろう。 「養子先の情報は?」 車の中で、中村優子が尋ねた。 「それがその」 田村祐二が、言い淀んだ。 「言いなさい!このハゲ!」 祐二が車を路肩に止めた。 「俺ははげてないだろう!」 「ごめんなさい、禿げてなくても、ハゲって言うのよ」 「うーん、実はちょっと普通じゃないカップルなんだ。はっきり言うと、おなべとオカマのカップルなんだよ」 「え?なぜ?もっとふつうのカップルがいるでしょ?」 「しょうがないだろ!田中先生のコネなんだよ」 「えー?普通のカップルはあとまわし?ひどいじゃないの」 「あー、それは他の者の担当。俺たちはどっちかと言うとあまり世間におおっぴらにはできないカップルを担当してるんだ。 浮気が奥さんにばれて、子供をおろすことになっていた赤ちゃんを助けたけど、シングルマザーはきついって言い出してる人もいて」 「で?」 「養子先はゲイカップルなんだよ」 「えええええー」 「田中先生は、ぜひそういう人たちも親になって、普通に子供を育てられることを証明したいんだよ。素晴らしいじゃないか」 「たしかにそうかもしれません。それは理想の世界です。もしかしたら、幼稚園や小学校でいじめられたりしませんか?まだまだ偏見があるのではありませんか?」 「そこでだ、テレビ局に頼んでドラマをつくってもらうことにした。ゲイカップルが養子をもらって赤ちゃんを育てる。そのなかにはもちろん、シングルマザーもいるし普通のカップルもいる。おなべとオカマのカップルもいる。当たれば、皆の意識から偏見がなくなる」 「そんなにうまく行くでしょうか?下手するとドラマは大ブーイングになるかも知れないんですよ。結局田中先生は日本をLGBT天国にしたいのでしょうか?」 「そうじゃないよ、人種もどうあれ、性的志向がどうあれ暮らしやすい社会を目指しているんだよ。もちろん外国人の場合は日本が好きで日本に忠誠心がないとね。」 「どうして田中先生はそんな風に考えてらっしゃるのですか?」 「田中先生の息子さんね、自死している人がいるんだ」 「交通事故じゃなかったんですか?」 「実は遺書があったんだが、隠されたんだ。息子さんはゲイだったんだよ。だから息子さんの供養になると考えてらっしゃるんだ」 「そんなことがあったんですか。わかりました。この件を、全力で取り組みたいと思います。そう言えば、今はOLさんも男の方が増えましたよね。すごくキレイな方でもいかつくて、ばれちゃいますよね」 「なかには筋肉質の本物の女の子もいるから気を付けてね」 「えー?いますか?そんな人」 「いるよ、俺の妹。いつも、オカマ、オカマ囁かれている」 「ぷはー、そんなことが、は、は、は、は、あははは」 「中村優子、笑いすぎ」 「すみません。こうやってオカマの人がOLが出来るのも、女装した人が家政夫をするドラマが受けたのがきっかけだと思うんですよね」 「そうかな?」 「そうですよ、あのなんとかって会社がOLがすぐやめちゃうんで、女装趣味の課長さんが1ヶ月だけOLをやるはめになって」 「えー?そうだっけ」 「まあとにかくドラマにも期待しながら、ゲイカップルとナベカマカップルはどこに住むんですか? 理解のある人たちを集めて、デザイナーズマンションで、住民たちもコミュニケーションをとりやすいかんじの中庭があるとよいですよね」 祐二は車を出した。 「うん、実はそういう感じのマンション見つけて、借り上げて、住民募集しているんだよ」 「え?なんなんですか?私は必要なんですか?」 「まあ、君が考えることは他の人も考えるってことさ」 「私はただの歯車ですか?」 「そうむくれるなよ。今にブレーンになるぞって思っておけよ」 優子は祐二が田中先生により近く一歩も二歩も先んじているのが気に入らなかった。 今にこんな男ぬいてやる。 でもどうやって? とりあえずは目の前の仕事をしっかりしよう。 ゲイカップルとナベカマカップルがちゃんと親にふさわしいのか見極めなくては。 「住民の意識調査もしなくてはなりませんね。偏見のない人たち」 「そうだよな。徹底的にやるつもりだ」 ゲイカップルも、ナベカマカップルも、子供を引き取ることをとても楽しみにしていた。 カップルの仲もよさそうで、大丈夫だろうと思い始めたとき、お茶のおかわりをゲイカップルが用意してくれたとき、なんとなく優子はツイッターを見た。 優子は顔色が変わり、祐二に後を頼んで、田中先生に会いに行った。
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