第2話 いきがみ

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 ある晴れた日の話だ。  なんて事の無い日常の、ほんの一瞬の出来事だ。 「彼女の様子はどうですか?」  僧侶の格好をした男が、そう彼女に問い掛ける。  彼女、ここ、黒巣屋の店員である彼女が無表情な顔で答える。 「しばらく彼女は店には来ていません」 「そうですか……どれ位来ていないのですか?」 「ここ二か月ほど、彼女は店には来ていません」  そう言って、店員は僧侶の格好をした男の前に白塗りの器を置いた。  中には抹茶が少し入っている。  男は、それをズズッと音を立てて飲み干すと、悲しい顔をして中身の無くなった器を眺めた。 「そうですか……残念です」 「残念ですわね」 「ええぇ、残念です。彼を呼ばなくては……」 「そうですね……」  男も店員も、そろって中身の無くなった器に目を止めたまま、しばらく動かないでいた。  店の外は、気持ちの良い風が駆け抜け、小鳥が歌っている。  これはそんな晴れの日の、ほんの小さな出来事。
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