第2話 いきがみ

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 僧衣の男にそう問われ、男はよりいっそう汗をかきながら「知りません」と答えた。 「そうですか……彼女の家は、憑物筋とも噂されていて、憑物筋はご存じですか? 一部の方には憑物筋を敬遠なさる方もいて、私は貴方にそれは明かさずに彼女をお任せしたんです」  僧衣の男は淡々とした様子で話を続ける。  男は、僧衣の男の話に相変わらず頷くだけだ。 「ご存じかも知れませんが、経営者の中には、商売繁盛を願って、稲荷や大黒様などをお奉りする方が多くいます。それらを憑物とは言いませんが、狐、犬神等は憑物とされる事が有ります。狐、犬神等は、それらを奉っている富める家に対するやっかみなどから昔は差別の対象になっていたと言われています。それ故、私も彼女の家が、憑物と噂されるものをお奉りしている事を伏せておいたのです」  僧衣の男は、そう言うと、「申し訳無有りませんでした」と男に詫びた。  商売をしている家なら、縁起を担ぎ、神棚を奉り、拝んでいる家も多い。  稲荷は商売繁盛、子孫繁栄等で人気の神だ。  稲荷神の人気は高く、それ故、屋敷神(屋敷の敷地内また、屋敷に付属した土地周辺に祠を立てて、奉る神のこと)として稲荷を奉る家も当然ある。  大黒や恵比寿等も、稲荷と同じく商売繁盛を願い、心を入れた像を神棚に奉り、拝む家もある。  江戸の頃には、流行神(はやりがみ)と言う言葉も有る通り、飢饉の時等、一時期、大変な人気が出て、その神仏を拝む家が多くあらわれると言った現象もあり、また、現代においてもスピリチュアルブーム等の影響から神仏を個人で奉ったり、拝んだりする事は別段、特殊な事では無い事だ。
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