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僧衣の男は、惜しそうに茶碗から手を離すと話しの続きを始めた。
「彼女の家で奉っていた神は、おこちょはぎ様と言うそうで、いつから奉っていたのか知りませんが、一族で代々奉って来た様です。彼女の家が私の寺の檀家であった事は以前お話ししたかと思いますが、私の曾祖父が残した檀家の住所録に彼女の家は、おこちょはぎ様を拝んでいると言うメモ書きがありまして、けれど、具体的にどう言う神かという事までは書かれてはいませんでした。しかし、少なくとも噂の通り、一族の繁栄と富をもたらす神として奉られていた事は本当の様です」
「ちょっと待って下さい。ご住職、彼女の家が何かしらの信仰を持っていたとしても、もう、関係の無い話では無いのですか? 彼女もその神様を崇めているとか? そんな様子は見えませんが? 私も知らない事ですし、わざわざこうやって呼び出して話す様な事ですかな? 失礼ですが、私も忙しい身の上でして、話がそれだけなら、もう失礼したいんですが……」
そう言って話しを切り上げようとする男に、僧衣の男は厳しい口調で言う。
「まぁ、もう少しお付き合い下さい。アイスコーヒーもまだ口を付けて無い様ですし」
僧衣の男はすっかり氷が溶けてしまっているアイスコーヒーを見ながら言った。
僧衣の男の一言に、男は、わざとらしく溜め息を付くと迷惑そうに顔を歪ませる。
「では、これを飲み終わるまでお付き合いしましょう」
男がそう言い終えると、店員が現れ、テーブルにアイスコーヒーを置いた。
「何だ、コレは?」
「アイスコーヒーで御座います」
男は額に皺を寄せた。
(分かっている)
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