第1章 [真紅の戦慄 (ヴァルキュリヤ)]

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第1章 [真紅の戦慄 (ヴァルキュリヤ)]

ーー聖誕歴508年、ルドベリア王国。鉱山や森林などの自然に囲まれた豊富な資源を保有する国である。そんなルドベリア王国は発展した農業技術を持ち、岩塩が名産であった。しかしそれらを凌ぎ有名なものが一つある。それは史上最強の騎士と謳われ、皆に畏れられる女騎士の存在である。  その女騎士はシルクの如く艶やかに輝き放つ肌に、万物を焼き尽くす業火を彷彿とさせるような鋭い真紅の瞳と、風に靡けば千本の針のように鋭く舞う白銀の細い髪を持ち、全てを圧倒するほどの覇気を身に纏っていると言われている。  名はユフィア・ローゼンハルク。ルドベリア王国第一騎士団筆頭にして名門貴族の出という地位を持つ彼女は真紅の戦慄(ヴァルキュリヤ)という異名の持主だ。  しかし、そんな最強女騎士ユフィアには未だ誰にも知られぬ、とある秘密があったーー。     ☆  ここはルドベリア王国、王都パンテライド。今日は祭日のため、市中は普段より一層活気づいていた。街のいたるところでは賑やかな会話と演奏の音が入り混じっている。食事や酒がうまいと定評のある街の酒場『ハーデンベルギ』でも、いつも以上の賑わいを見せていた。  そこでは周囲の人を避けるように隅っこに腰掛けて、注文した料理を心待ちにする者がいた。その者はひとり目深にフードを被り、顔は下半分しか出ていない。そのうえ、ローブで身を包んでいるため、見た目では性別の判断すらつかなかった。そして足元には、布にくるりと包まれた姿の剣と少々の荷物が、きちっとした姿でまとめられている。  このような露出を抑える装備こそ珍しくはないが、椅子に座っている姿勢の美しさは、やや珍しいといったところだろうか。その姿から受ける印象は、ダラけた性分の持ち主では無さそうということ。 (どこも賑わっているのだな。聖誕祭は年間通して盛大な祝い事だし無理もないけれど。そのおかげで私もこうして食事を……。  やっと、やっとだ……。やっと念願のあれを出来立てで(しょく)せる。はぁぁ楽しみだ、早く来ないかな)  これから出てくる出来立ての料理を思い浮かべると顔が緩むため、それを隠そうと俯き加減にフードをキュッと引っ張る。  その後すぐにお目当ての料理は、忙しそうに慌ただしく店内を駆け回る、頭に布巾を巻いた赤毛の少女によって運ばれてきた。少女は、騒々しい中でもよく通る声で 「お待ちどうさまっ!ごゆっくりーっ!」  と、テーブルの上に皿を置く。するとホカホカとした様子で美味しそうな匂いが立ち上ってきた。  これは蒸かして固めた芋を、香辛料を使ったスープの中におさめてある『クヌートル』という料理だ。蕩けるような食感とスープのスパイスが絶妙な代物である。  思わずヨダレが口から溢れそうになるのを手で堪え、フードの中で目をキラリ輝かせながらお皿に手を伸ばす。 (うわぁぁ、これか……ごくり)  赤毛の少女は、不意にクヌートルを出した先を振り返ると、ん?と首をかしげる。 (なんか……なんだろう妙なーー)  と違和感を感じるのだが、すぐに注文が入ったため、また慌ただしく店の奥へ。
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