第1章 [真紅の戦慄 (ヴァルキュリヤ)]

2/12
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/19ページ
 そんな少女の動きをよそに、喉を鳴らして皿に鼻を近づける。 (なるほど、いつも食べてるのと違って香り高いっ! んん……これはやはり忍んででも来て良かった)  しかし、これからゆっくり食事を楽しもうとする者の近くではどうも騒がしい状況になっていた。どうやらヤンチャな輩が騒ぎを起こしているようだ。  しかし、ご馳走を前に近くの騒ぎなど気にできる余地もなく、早速スープを一口。ゆっくりと飲み込めば、食欲を増進させるいい香りがたちまち鼻を抜ける。反射的に頬を緩ませて (こ、これが……いつも取り寄せても冷めたものしか食べられなかったから……。  そうか、そうなんだ。こういう味なんだなぁ……)  次に芋などの具材を食べようと手を伸ばしたときーー ーーバシャン!  と、皿がテーブルごと床にひっくり返る。そして目の前に倒れ込み転げる若い男、その横には髭を蓄えた屈強な男の姿が。 「てめぇ、誰に喧嘩売ってんのか分かってんのかこらぁっ!」  テーブルに倒れこんできた若い男は、これにニタニタしながら 「あっははは。がたい立派だけど拳は軽いもんだな。なんだ洗濯で鍛えただけの筋肉か?」  髭の男は鬼のような形相で 「んあ? てめぇもっぺん言ってみやがれ! 明日には洗濯物みたいに路上でぶら下がってることになるぞクソガキがっ!!」  若い男は、ひっくり返ったテーブルを背もたれのようにしてケラケラと笑い 「お前みたいな汚い髭男はそれこそ洗濯もできねよな。洗ってもしょうもないから。汚物として川に流してやらねぇと」  と懲りずに挑発しながら(おもむろ)に起き上がる。そんな中、椅子の上からただただひっくり返された料理を見つめ (わ、私のごはんが……あぁ……)  と唖然として固まる。気づけば周囲には、あっという間に野次馬たちが多く集まり、口々にやっちまえと煽っていた。  それに乗るように髭の男は拳の骨を豪快に鳴らし、若い男の顔めがけて殴りかかろうとするが、そこで 「うぉい、ちょっと待った! ここでこれ以上暴れないでくれ、客に迷惑がかかるだろ!」  という声とともに、身長の低い癖っ毛の青年の姿が現れた。その傍らで料理をひっくり返されたことの衝撃から、ようやっと立ち直り (はぁぁ、クヌートル……今日はこれが最後だと言っていたな。今度いつ食べられるか分からないというのに、なんて日だ。  あっいけない、それどころじゃない。騎士である私が制しないと、でも迷惑かけてしまうかもしれないし、どうすれば……)  フードを脱ごうとした手は止まる。そして髭の男は興奮状態のまま 「んあ、うるせぇ。なんだこのチビっ!」  チビと言われた青年は頬を引き攣らせ 「チビじゃねぇ俺はティトだっ!」
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!