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第一章 いちごオレ
いちごオレの甘ったるさが口から喉に滑り落ちて、胸が焼けるようにひりひりする。
夏休みが終わったばかりの炎天下の中で飲むには、いささか場違いなほどに甘いそれを、私は懲りもせずに毎日買ってしまう。
外にある自動販売機まで歩くのも、そこから教室に帰るために歩くのも、ひどく暑くて億劫なのだけど、外の自動販売機にしかいちごオレは売っていないのだから仕方ない。
「あ、平野先輩」
中の自動販売機にもいちごオレを置いてくれないだろうか。
なんて思いながら歩く私と同じようにいちごオレを飲みながら隣を歩いていた、友人の真奈の口からそんな言葉が零れ落ちた。
うるさい蝉の声に紛れてしまいそうなほど小さな声。
けれど確かにひどく楽しそうに弾んだ声を、私の耳は律儀にも拾ってくれた。
「ああ、ほんとだ」
真奈が向ける熱い視線を、私はたった今気づいたふりをして、淡白すぎるかもしれない返事を返す。
渡り廊下で友人らしき人と立ち話をしている平野先輩を、真奈はうっとりとした目で見つめている。
私の言葉なんて、きっと耳にも届いていないだろう。
真奈の赤く染まった目尻と潤んだ瞳の境界線が溶けてしまいそうだった。
舐めたらどんな味がするのだろう。
いちごオレより甘いだろうか。甘いかもしれない。
なんて我ながら馬鹿みたいなことを思う。
「やっぱり、かっこいいなぁ」
そうこれまた溶けてしまいそうな甘ったるい声に、そうだねと適当に頷いておいた。
私たちより一つ年上の平野先輩に、真奈は高校に入ったばかりの頃からずっと熱を上げている。
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