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そもそも普通がどうとかってどの基準で決めるものなのだろう。決めるべきものなのだろうか。
「あっ」
坂本の唐突な言葉に驚く暇もなく、跳ね上がったボールが真奈にぶつかるのを見てしまった。
それほど強くぶつかったわけではないと思う。
でもそんなことは冷静に考えられない。
「真奈!」
真奈が痛そうにしている、という一点だけで私は思わず立ち上がって真奈を呼んでしまった。
真奈はちょっと驚いた風な顔をして、でもはっきり私の方を見た。
だ、い、じょ、う、ぶ、と愛らしく口パクを返してくれたかと思うと、ひらひらと蝶のような動きで試合に戻っていく真奈に見惚れてしまう。
黙って私たちの行動を見守っていたらしい坂本はにやにやと非常にわざとらしい笑みをこちらに向けてきた。
「よかったね。いいなぁ、高藤さん」
「……真奈が痛い思いしてるんだから、いいわけないでしょ」
「それは大前提だよ。好きな人に返事してもらえるの、嬉しいよね」
恥ずかしさを誤魔化すように座り直しても坂本はにやにやしたままだ。
でもそのにやにやの奥に少しだけ優しさのようなものが見えなくもない。
「高藤さん。耳、赤い」
「うるさい」
坂本の笑い声に文句を言いつつ、楽しくなってしまっているのは私も分かっていた。
だってこんな風に話すなんて、誰ともしたことない。誰ともできなかった。
試合が終わってから自分たちの番が来るまで、私たちの密かな恋話は続いた。
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