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「えっと、こうやって話すようになる前のことを言ってる?」
「そうに決まってるでしょ」
「はは、そりゃそっか。んー、そうだね。前にも言ったけど、やっぱり羨ましかったから。好きな人のそばにいられる高藤さんが」
そんなの羨ましいのは私の方だと、意地悪な私が顔を出した。
坂本を前にすると私はつい自分の感情を押し殺すということを忘れてしまう。
「私は坂本が羨ましい。坂本の方が、私より勝ち目あるもん」
そうかなぁ、と坂本はちょっと困ったように笑って小さく首を振った。
「綾坂さんは平野先輩が好きって、高藤さんが言ったんだよ。勝ち目なんて、そんなのない。あの人、かっこいいし」
むりむり、と笑う坂本に私はつい苛ついてしまった。
よくない癖だ、わかっている。
すぐにカッとなるのは、本当によくない。
でも止められなかった。
「だって、坂本は男だから」
それだけで私よりは勝ち目がある。
なんて、そんな理不尽過ぎること。言わなければよかったとすぐに後悔した。
坂本の顔が一瞬、くしゃりと歪んだから。
「それだけで選ばれてもなぁ」
泣き笑いのような顔だった。
坂本がそんな顔をしたことに狼狽えて、そうさせてしまった自分の未熟さに心底嫌悪感を抱いた。
男だとか女だとか、そんなどうしようもない理不尽さに怒っていたのは私なのに、いとも簡単に私は同じことをしてしまった。
「……ごめん」
「なんで高藤さんが謝るのさ」
こんな時まで坂本は優しい。
ちっとも私に怒らない。
怒ればいいのに。なじってくれればいいのに。
それもこれも全部、私が楽になるためのことでしかないから言えないけれど。
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