第一章 いちごオレ

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「私が言われたら嫌だと思ったから。言われて嫌なことは、言っちゃいけない、し。……変なこと言って、ごめん」  ふーん、と気の無い返事だけど、暗くはなかった。  少しの間の沈黙がなんだか落ち着かなくて、苦し紛れの言葉を発した。 「……お詫びと言うには、ちょっと、ささやか過ぎるんだけどさ」 「え、なになに。綾坂さんの話?」 「それはいつもしてるじゃん。じゃなくて」  ぱっと顔を輝かせる坂本に呆れて首を振る。  坂本は本当に真奈が好きだ。  私も人のことは言えないけど。 「一口あげる。真奈が好きな味だよ」  飲みかけのいちごオレを恐る恐る差し出すと、坂本は少しも躊躇わずにストローを咥えた。  言い出した私の方が驚いてしまうほどに自然な動きだった。  それもそうか、と私もすぐに思う。  私たちはそんなことを意識するような、甘ったるい関係ではないのだから。 「あっま」  すぐにストローから口を離した坂本は、よく飲めるね、と顔を顰めた。 「本当は私もあんまり好きじゃない」 「だろうね。甘すぎ」  綾坂さんよく飲むね、でもこういう味が好きなのかわいい、と結局私たちの会話は真奈に戻る。それがとても心地よい。  いちごオレの味を洗い流すようにサイダーを飲んでいた坂本が、ふと思いつきのようにペットボトルを差し出してきた。 「飲む?」 「ううん、いい」  私にはいちごオレでいい。真奈と同じいちごオレがいい。  それが何の意味もないことであったとしても。
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