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「私が言われたら嫌だと思ったから。言われて嫌なことは、言っちゃいけない、し。……変なこと言って、ごめん」
ふーん、と気の無い返事だけど、暗くはなかった。
少しの間の沈黙がなんだか落ち着かなくて、苦し紛れの言葉を発した。
「……お詫びと言うには、ちょっと、ささやか過ぎるんだけどさ」
「え、なになに。綾坂さんの話?」
「それはいつもしてるじゃん。じゃなくて」
ぱっと顔を輝かせる坂本に呆れて首を振る。
坂本は本当に真奈が好きだ。
私も人のことは言えないけど。
「一口あげる。真奈が好きな味だよ」
飲みかけのいちごオレを恐る恐る差し出すと、坂本は少しも躊躇わずにストローを咥えた。
言い出した私の方が驚いてしまうほどに自然な動きだった。
それもそうか、と私もすぐに思う。
私たちはそんなことを意識するような、甘ったるい関係ではないのだから。
「あっま」
すぐにストローから口を離した坂本は、よく飲めるね、と顔を顰めた。
「本当は私もあんまり好きじゃない」
「だろうね。甘すぎ」
綾坂さんよく飲むね、でもこういう味が好きなのかわいい、と結局私たちの会話は真奈に戻る。それがとても心地よい。
いちごオレの味を洗い流すようにサイダーを飲んでいた坂本が、ふと思いつきのようにペットボトルを差し出してきた。
「飲む?」
「ううん、いい」
私にはいちごオレでいい。真奈と同じいちごオレがいい。
それが何の意味もないことであったとしても。
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