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坂本といるのは真奈とは違う心地よさがある。
真奈といるといつだってドキドキしてふわふわして少しも足が地につかないけど、坂本といるとしっかりと現実を歩いてなお楽しい。
今までみんなが恋話を楽しむ気持ちがいまいちわからなかったけど、ようやく分かった。
確かにとても楽しいのだ。
好きな人のことを話すというのは、それだけでとても楽しい。
そんな風に浮かれていたから、きっとバチが当たったのだ。
「え?」
昼休みにどこかに行っていた真奈がようやく帰って来て、その手にいちごオレが握られていた時からなんとなく嫌な予感はしていた。
でもまさかと思って気づかないふりをした。
だけど現実はいつだって非情で、真奈はいとも簡単に現実を突きつけてきた。
「だから、平野先輩とね、付き合うことになったんだ」
弾む声に赤く染まった頬。
今まで見てきたどの真奈より愛らしく、どこまでも恋する女の子だった。
「これもね、買ってくれたの」
優しいでしょ、と真奈は笑った。なんの曇りもない笑顔だった。
私の気持ちなんて微塵も気にしていない顔をしていた。
そんなことで笑ってくれるのなら、優しいと言ってくれるのなら、私なら全財産を投げ打ってでもいちごオレを買い占めるのに。
そのくらい私は真奈が好きなのに。こんなにも好きなのに。好きで好きで好きで仕方がないのに。
それでも、真奈はきっと少しも私の気持ちには気づいていないし、これから先も気づくことはないのだろう。
真奈はいかに先輩が優しいか、先輩と自分の話しが合うか、趣味が一緒か、なんて話をしていた。
それら全部が耳をすり抜けていくようだった。
「私、いちごオレ買ってくる」
もうここにいること自体が、私にとって果てしなく辛くて、私は席を立っていた。
いってらっしゃい、と何にも迷わず真奈は手を振った。
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