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所詮、真奈にとって私なんてそんなものだ。容易く手を離せる存在でしかない。
私は縋り付きたいほどにあなたが好きなのに。
ストローの代わりに唇を噛み締めて、私は走った。
本当は知っていた。どうして真奈が暑い中いちごオレを買いに行くか。
平野先輩がいつもあの渡り廊下にいるからだ。
自然にあそこを通るためにわざと外に行っていたのだ。
そしていちごオレを選んだのは、それだけ自分の魅力を熟知しているからだ。
いちごオレを持っていると可愛く見えるからだ。
全部全部計算で、その上で好きな人を捕まえて、こうやって私のことなんて本当は少しも気にしていないのだ。
酷いと思う。
私が真奈を好きになったのだって全部全部私の勝手だけど、酷いと思う。
真奈は酷い人だ。なんて人だ。
それでも私はいまでもどうしようもなく真奈が好きだ。
真奈が好きで好きで仕方ない。
馬鹿みたいだ。本当に私は馬鹿だ。
嫌われても全く気に留めない様子の真奈を見てなんだか不思議な子だと思って好きになったあの時からこうなることは運命だったのかもしれない。
私の気持ちなんてなかったことにされる運命だ。
真奈に声をかけられた時、どうして答えてしまったのだろう。
でも、こうなるとわかっていたら、私は答えなかっただろうか。
私はどうしようもない馬鹿だから、結局答えてしまったような気もする。
走って走って、外の自動販売機に着く頃には息がすっかり上がってしまっていた。
「あ、高藤さん」
予想通りそこには坂本がいて、いつも通り苛々してしまうほど涼しげで、私はそのことに途方もなく安堵した。
「どうかした?」
いつもと様子が違ったのだろうか。坂本が鋭くそう問いかけてきた。
必死でなんでもない表情を作ってみたけど、きっとそんなことできていないだろう。
できっこない。だって私は好きな人にどうしようもない現実を突きつけられたばかりなのだ。
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