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「真奈が平野先輩と付き合うって」
一息にそう告げた。
坂本が短く息を飲んだ気がしたけど、それは私だったかもしれない。
苦しくて苦しくて、私は坂本に手を伸ばした。
坂本はいつもと同じようにサイダーを持っていた。
「それ、ちょうだい」
奪うようにサイダーを手に取って、みっともなく震える手で開けた。
初めて飲んだサイダーは、ぱちぱちと口の中で弾けてやっぱり私の口と喉と胸を痛めつけた。
だからこれは仕方ないのだ。
私が泣くのは痛いからだ。真奈のせいじゃない。
だって、私はそもそも真奈に告白すらしていない。
好きだと言ったこともない。
坂本のように好意を見せていたわけでもない。
だからそれで泣くのは違う。
私は真奈のせいで泣いているんじゃない。
ただ、ただ痛くて泣いている。
「高藤さんって、案外泣き虫だね」
泣いてない、とまた強がる私に、坂本は小さく笑って、それから今度は何故か坂本がおもむろにいちごオレを買った。
坂本はそれを口にして、顔をくしゃくしゃにした。
「いたい」
これすっごく痛い、と胸を押さえて、坂本は泣いた。
どちらともなく手を伸ばして、私たちは手を繋いだ。
馬鹿みたいに泣きながら、痛い痛いと言いながら、私たちは手を繋いでいた。
お互いの熱だけが鮮明で、確かで、どうしようもないくらい心が痛かった。
好きだった。ただただ好きだった。
私たちは同じ人を好きになって、同じように失恋した。
ただそれだけのことだ。
私たちはまるきり同じ時にまるきり同じ動きをした。
私が振り上げたサイダーと、坂本が振り上げたいちごオレが、放射線を描いて飛んで地面について、弾けた。
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