第一章 いちごオレ

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「真奈が平野先輩と付き合うって」  一息にそう告げた。  坂本が短く息を飲んだ気がしたけど、それは私だったかもしれない。  苦しくて苦しくて、私は坂本に手を伸ばした。  坂本はいつもと同じようにサイダーを持っていた。 「それ、ちょうだい」  奪うようにサイダーを手に取って、みっともなく震える手で開けた。  初めて飲んだサイダーは、ぱちぱちと口の中で弾けてやっぱり私の口と喉と胸を痛めつけた。  だからこれは仕方ないのだ。  私が泣くのは痛いからだ。真奈のせいじゃない。  だって、私はそもそも真奈に告白すらしていない。  好きだと言ったこともない。  坂本のように好意を見せていたわけでもない。  だからそれで泣くのは違う。  私は真奈のせいで泣いているんじゃない。  ただ、ただ痛くて泣いている。 「高藤さんって、案外泣き虫だね」  泣いてない、とまた強がる私に、坂本は小さく笑って、それから今度は何故か坂本がおもむろにいちごオレを買った。  坂本はそれを口にして、顔をくしゃくしゃにした。 「いたい」  これすっごく痛い、と胸を押さえて、坂本は泣いた。  どちらともなく手を伸ばして、私たちは手を繋いだ。  馬鹿みたいに泣きながら、痛い痛いと言いながら、私たちは手を繋いでいた。  お互いの熱だけが鮮明で、確かで、どうしようもないくらい心が痛かった。  好きだった。ただただ好きだった。  私たちは同じ人を好きになって、同じように失恋した。  ただそれだけのことだ。  私たちはまるきり同じ時にまるきり同じ動きをした。  私が振り上げたサイダーと、坂本が振り上げたいちごオレが、放射線を描いて飛んで地面について、弾けた。
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