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第二章 サイダー
冬に食べる鍋というのはどうしてこんなに幸福の味がするのだろう。一緒に食べる相手が気兼ねのいらない相手ならなおさらだ。
鍋というのは割とプライベート感が漂う食べ物だと僕は思っているので、気を許している人ならともかく、別に心を許していない会社の人なんかと囲む鍋は味気がない。
だけど今日一緒に鍋をつついている相手は、高校生の頃から社会人になった今まで付き合いのある友人なので、鍋はとても美味しい。美味しいのはいいことだ。
「ちょっと坂本、豆腐ばっかり食べないでよ」
僕がおたまで豆腐を掬い、いそいそと取り皿によそっていると、僕の向かいに座った友人である高藤さんが眉を寄せながら指摘してきた。
「えー、そんなに食べてないよ」
「食べてる。食べ過ぎてる。一人で何丁の豆腐を消費する気?」
「流石にそんなに食べてないって」
せいぜい食べ始めてから一つ二つ三つ四つ……あれ、意外と食べてるな。でも豆腐が美味しすぎるから仕方ないよね。うんうん。
「豆腐おいしいから、高藤さんも食べな」
味の染みた柔らかな豆腐は幸せの味がするから、高藤さんの取り皿にも取り分けてあげた。
高藤さんの表情がちょっと緩んで、坂本は仕方ない奴だなとでも言いたげな顔になる。
坂本は肉も食べな、と言って高藤さんは鶏団子をよそって僕の取り皿に入れてくれた。
ありがとう、と言って鶏団子をまるごと頬張ると、甘味も感じる出汁が滲み出てきて、確かにとても美味しかった。
なんだかんだ言いつつ高藤さんは優しい人だなぁとしみじみ思う。
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