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平野先輩は野球部のキャプテンになったばかりで、成績はちょっと心許なくて、友だち思いらしい。
そんな風に真奈から教えられた知識ばかりが積もっていく。
私と先輩は話したこともないのに。
もっと言うなら興味だって、さほどないのに。
「ね、明希もそう思うよね」
真奈の無邪気を装った問いかけに曖昧に笑う。
強く肯定したら、明希まで好きにならないでよと笑いながらも鋭く牽制してくる癖に、こんな風に聞いてくる真奈はズルイと思う。
でもそのズルさを笑って許してしまう私はきっとどうしようもない馬鹿に違いない。
「あ、やだ。先輩こっち見た!」
きゃあ、と可愛らしい声を上げながら顔を赤くして、真奈が私の腕にぎゅうと抱き着いた。
真奈の柔らかな身体が私の腕に押し付けられて、ふわふわともぐらぐらともつかない複雑で乱暴な感覚が私を襲った。
ああ、真奈は恋をしている女の子の顔をしている。そんな真奈はとても可愛らしい。
とてもとても、可愛らしい女の子で、私は途方もなく可愛らしいと思えるのに、それは私のためにある顔ではない。
ああ、わかっているのに。
わかっているのに、こんな風にくっつかれているけど、私は汗臭くないだろうか、なんて咄嗟に思ってしまう私はやっぱり相当な馬鹿だ。
遠くにいる平野先輩は相変わらず真奈の言う通りかっこよくて、きっと真奈にお似合いだと思う。
「うん、確かにかっこいいね」
どきどきと高鳴ると鼓動と、ひりつく胸を無視して、私は笑ってみせた。
平然とできていたかはわからないけれど、笑う以外に何ができるというのだろう。
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